4.魔王の突撃訪問です─7
「お前、案外……。」
『蒼真ぁ。』『魔王様。』
男に話し掛けた俺だったが、ミカエラとアルフォシーナの念話に気付いて口を閉ざした。
『ミカエラとアルフォシーナか。聖職者は既に亡骸だったようだな』
『ん。間に合わず。』『ごめんねぇ、蒼真ぁ。』
『良い。それよりもそっちは今どんな状況だ。』
命に応える事が出来なかった事で落ち込んでいる声音の二人だが、俺はそれを一言で許す。今は長々と宥めている状況でもないからだ。
目の前の人族から聖職者長が国王に消されたのは聞いていたが、神力核が国王の手中にある事は不味い。フランツとコンラートを向かわせてはいるが、隼人は神力核が暴走してから感知しにくいようだった。その証拠に先程から渋い顔をして首を捻っている。
『フランツちゃんとコンラートちゃんがブヨと踊ってるわよぉ。』『今、目の前。』
相変わらず二重音声で聞こえるミカエラとアルフォシーナの念話だが、この二人の報告では危機感というか現場の詳細が不明だった。──というか全く伝わってこない。
しかも踊るとはさすがに言葉通りではないと思えた。詳細は全く分からないままの為、俺の脳内は更なる混乱に陥る。
『……後で行く。逃げないように四魔将軍で押さえとけ。』
結局要点が曖昧なので、不本意だが自分で行くと告げた。
分かっていた事だったが、四魔将軍は基本的に脳筋集団である。考えるのが面倒なので、すぐ拳に訴えるタイプばかりだった。
「蒼真……。」
声を掛けられ隼人へ振り返れば、それまでとは違い酷く顔色が悪い。
彼自身の魔力も乱れているようで、それを察しているらしいダミアンも厳しい表情を浮かべている。
魔核が元々神力核だったからか、神力の方が強まるとその影響が少なからず隼人に出るのかもしれなかった。
「少し座ってろ。結界を張ってやる。風壁。」
隼人が頷くのを見て、俺は彼を対象に風の防御魔法を展開する。
本当は神力の影響の少ない場所へ連れていくのが良いのだが、今は神力核の確保が優先されると判断したのだ。願わくばこれが悪手とならなければ良い。
「ダミアンはここに隼人と待機。……で、そこの人族。案内しろ。」
「はっ。」
「はははいっ。」
ダミアンと人族の男の返答を聞き、俺はそれだけ言うと直ぐ様廊下に向かって歩き出した。
だがただ待たせておくだけにはいかない為、脳内で細かい指示の必要なダミアンに念話を繋げる。
『ダミアン。隼人の乱れた魔力調整を頼めるか。』
『はっ。わたくしの全力をもって、隼人様の魔力を整えてみせましょう。魔王様の魔力で核を変化させた隼人様にわたくしが魔力で触れるなんて……、あぁ……幸せすぎて放出してしまいそうです。』
『おい。ナニを出す気だ、変態。隼人の前でアホな事してみろ?お前のそれを千切って日干しにしてから口に突っ込んでやるからな。』
『あぁ~……、それはそれで想像すると気持ちが高ぶりますっ。』
要件を伝えたは良いが、ダミアンはやはり変態だった。
念話の内容は隼人に聞こえていないが、この恍惚としたダミアンの表情を見れば違和感を感じるだろう。危機感を感じて警告と共に脅したつもりだったが、それも無駄に終わった。
そもそも変態の思考についていけない為、俺はそれ以上ダミアンとの会話を諦める。一応のところ隼人は俺の風結界に守られているので、変態が傍でナニをしようと実質的被害はない筈なのだ。
実質的な被害は──だが。




