2.魔王として何をしましょう─8
「氷槍・解除。土槍─ダミアンの周囲に─。」
俺は長剣に掛けていた氷の槍魔法を解除し、続けざまにダミアンの周囲を大地から突き出した槍で囲む。
「魔王様、お忘れでしょうか。わたくしには、翼があるのですよ?」
笑いを堪えきれないといった様子のダミアン。
確かに周囲を取り囲まれた状態ではあるが、彼の背には大きな猛禽類に似た茶色の羽根があるのだ。
そして翼を大きく広げると、悠々と上昇する。
城内の地下とはいえ、高さは他と変わらず、三階建て程の空間。
俺の作った土槍は5メートル程。明らかに上空にスペースがあった。
「あぁ、知ってるよ。闇爪。」
俺は翼を広げたダミアンに向け、闇魔法を放つ。
イメージで作り上げた闇の爪は、天井から伸びた影の手の如く、軽く土槍の囲いを覆う程の大きさだった。
勿論、逃げ場所なんか許す筈もない。
「?…があぁぁぁぁぁぁ…っ!」
ダミアンが見上げるが、時既に遅し。
闇の爪に羽根を鷲掴みされ、内臓が出そうな程に大口を開けて叫ぶダミアン。
「考えたんだ。俺の魔力の中で、何がお前に対抗出来るかって。」
腕を組んで薄い笑みを浮かべ、宙に縫い留められたダミアンを見上げる俺。
知識の中で、俺が何故魔王に選ばれたかを知った。
「俺さ、闇魔力の適合者だったんだよな。」
首を竦め、組んでいた腕を解く。
「解除─闇爪以外─。」
ダミアンを掴んでいる闇の爪以外の魔法を解除し、ゆっくりと彼を引き摺り下ろす。
ダミアンは既に意識が飛び掛けているようだ。
大きく開けた口の端から涎を垂らし、半ば白目を向いている。
「水球。ダミアン?まだ気を失うのは、早いぜ?」
俺はダミアンに威力を殺した水の球を当て、強制的に覚醒させた。
「あ…ぁぁぁぁ…っ。」
だが、翼ごと上半身を闇の魔力で縛られている彼は、唸る事しか出来ない。
「前魔王が言ってただろ?弱点の克服は、早急にするようにって。」
そう告げながらも、俺はダミアンの翼に直接、手を伸ばす。
関節部分に爪のようなものが飛び出てはいるが、やはり触りごごちは鳥のそれと同じ。
そして一頻り撫でた後、思い切り掴んでやった。
「があぁぁぁぁっ!」
強制的に跪かせた状態のダミアンだったが、その衝撃で弓なりに身体をしならせ、後頭部から地面に倒れ込む。
翼こそ、彼の急所。唯一の弱点だったのだ。