3.魔王に喧嘩を売ってはいけません─9
「隼人。勇者召喚を行う国は、お前が呼ばれたところだけか?」
「うん、あの国は教会の権力が一番大きいからね。他の三か国はどれも似たり寄ったりだけど、勇者を召喚出来る程の神力を集める事は出来ないみたい。要は、教会総本山ってな感じかな。」
俺の問い掛けににこやかに答える隼人だ。
そして何処でも勇者を召喚していると思いきや、そうではないらしい。祈りの力自体が集まらなければ不可能だという事か。
「あの、魔王様。」
「何だ、リミドラ。気になる事でもあったか?」
「はい。現在北の人族国に潜入中の者からの知らせでは、勇者の代わりに神力核を使って祈りの力を集めようとする動きがあるようです。そして神力核を魔道具のように使い、魔族を制圧しようとしているらしいとの事でした。まだ調査中ではありますので、はっきりとした情報ではないのですが。」
「いや、良い。ありがとう、リミドラ。そうか……。」
申し訳なさそうに俯くリミドラの頭を撫でる。──新たな早急に対処しなくてはならない問題も出てきた。
リミドラの取りまとめている獣人属犬種は潜入捜査が得意な者が多い。情報が確定している訳ではないからと申し訳なさそうな彼女だが、これが事実ならば放置すればかなり危機的な事態に陥りそうだ。
「これは本格的に人族の国に侵攻した方が良いんじゃないかい、蒼真?」
「……そうだな。このまま好きに神力を使われては堪らない。よし、こちらの目的は二つ。勇者召喚の書物もしくは伝承を潰す事と、神力核を使った道具の抹消だ。わざわざ隼人を喚び寄せてまで魔王に喧嘩を売った代償を支払ってもらおうじゃないか。」
隼人が決断を促し、俺は行動を決める。
人族との戦ともなれば魔族にも多少の被害が出るが、四魔将軍と共に圧倒的な力をもってして抑え込むのは悪くない案だった。
「はっ。では、四魔将軍を呼び戻します。」
「あぁ、そうしてくれダミアン。リミドラは新しい情報が上がったらまた教えてくれないか。」
「はい、魔王様。」
すぐさま動くダミアンに四魔将軍は頼み、リミドラにも引き続き調査を継続してもらう。
「ねぇ蒼真、僕は?一緒に行っても良いよね?勇者が魔族になったって、物凄くアピールしたいんだけど。」
何故かノリノリの隼人だ。そんなに楽しそうに言われてもなぁ。
「危なくないか?聖職者と対峙してどんな影響が出るか分からないし、俺的には城で大人しく待っててくれたらと思うんだが。」
「え~っ、僕って守られキャラ?違うでしょ~、一緒に悪戯した仲じゃん。あ、もしかして蒼真は僕の事信じてない?」
俺の気持ちも知らず──いや、知っててなのか──隼人は唇を尖らせて拗ねて見せる。
「宜しいのではありませんか、魔王様。隼人様の実力を試す意味もありますし、魔族としての初仕事と認識されても構わないと思います。」
迷う俺に、リミドラはにっこりとそう告げてきた。




