3.魔王に喧嘩を売ってはいけません─5
「ありがとうございます、隼人様。これから試してみます。」
「うん、頑張って~。」
「では魔王様、失礼致します。」
「あぁ、またな。」
やたら盛り上がった隼人とニコラは、問題点の解決に新しい策を見出だしたようである。
嬉々として退室していったニコラを見た限りでは、次の試作品には期待出来るだろう事は分かった。
「何、隼人。通信系得意だった?」
「僕の専攻は情報通信学科だからね。あ、だったが正しいかな。」
「へぇ~。凄いな、隼人。俺にはさっぱりだったぜ。」
一瞬苦い表情を浮かべた隼人だが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
俺も隼人も、もう向こうの世界には戻れないからな。
「よし、んじゃ暫く待機だな。」
「でも蒼真、他の魔族とテレパシー出来るんでしょ?」
「あ?いや、念話が可能なのは連結してる奴等だけだからなぁ。あと他には影をつけてるリミドラくらいだ。全員となんて無理無理。俺の頭がパンクする。」
何度も念話をしている場面を見ている隼人は、俺が──魔王が魔族達全員と遠隔精神反応可能と思っていたようだ。
「連結?」
「あ~……、魔王特有の拘束だな。」
細かく説明すると、ただでさえ不機嫌モードに入った隼人がキレそうである。俺は戦略的撤退をする事にして、簡潔にそれだけを告げた。
「あ、そうだ。四魔将軍は不在だから後にするとして、リミドラを紹介しよう。」
「……婚約者?」
「そうだ。隼人にも会ってもらいたい……が、ダメか?」
微妙な空気を醸し出している隼人に、俺は怖々とお伺いをたてる。
さすがにリミドラに何かするとは思えないが、彼の対応が読めないのだ。
「……良いよ。」
「分かった。ちょっと待ってろよ?」
『リミドラ?』
渋々といった感じではあったが、悪感情は見えなかった為に俺は黒蝶を通じてリミドラに念話を送る。
『はい、魔王様。もうこちらにお戻りになったのですね?』
『ん?分かるのか?』
『はい。僕の魔力だけでは無理ですが、黒蝶さんが魔王様を感知して教えてくれたのです。お帰りなさいませ、魔王様。』
声音から嬉しさが伝わり、自然と俺の顔も緩んだ。
『あぁ、ただいまリミドラ。さっそくだが、紹介したい奴がいるんだけど……俺の執務室に来れるか?』
『はい、勿論です。すぐに伺いますね。』
『おぅ。危ないから急がなくて良いからな?』
『はいっ。』
そんなやり取りを終えて隼人に顔を向ければ、非常に生温い視線を向けられている事に気付く。
うわ~……、何だかやりづらいなぁ。
顔がひきつりそうになったが、何とか根性で表情筋を留めた。俺、大丈夫か?




