3.魔王に喧嘩を売ってはいけません─4
「魔王様。ニコラ・アデルをお連れしました。」
「あぁ、入ってくれ。」
ノックの後、ダミアンの声が響く。
その頃にはドアルの出してくれた紅茶を飲み終わり、最低限の休憩が取れていた。
「ま、魔王様。あの……。」
声のした方を振り向けば、相変わらずフードを深く被っているニコラがいる。そわそわと落ち着きなく、魔道具の会話をしていない時はこんな風だったと思い出した。
「ニコラ、元気そうだな。こっちは俺の親友の隼人。隼人、魔道具開発者助手のニコラだ。」
「ども。」
「こここここんにちは、ははは初めましてです。」
隼人は興味無さげに、ニコラは人見知り全開で消えそうな声音で互いにとりあえずの挨拶を交わす。
「ニコラ・アデル、貴方はこちらに。」
ダミアンの指示を受け、ニコラは俺の右側で隼人の座るソファーの対面に腰を下ろした。そのタイミングでドアルがお茶を出す。
「さてと。早速だが本題に入らさせてもらう。音声魔道具の開発はどうなってる?」
「はははははい。こ、コンラート様が御不在の為に滞ってはいますが、大体の形は出来たと思います。」
隼人を警戒してビクビクしてはいるが、魔道具の話になると口が軽いニコラだ。
そして試作品を目の前に出してくれる。
「へぇ?」
これは俺が提案した音声を飛ばす──所謂電話のような魔道具だ。初めは録音が出来れば良いと思っていたが、それだと情報の足が遅くなる。
今現時点で手紙を使っているのだが、それすら鳥形の魔族が直接運んでいるのだ。勿論途中で何らかの攻撃を受ける事もあり、その場合の情報漏洩が懸念されている。
「電話……もしくは通信機かな?」
「あぁ。まだまだ燃費が悪くて、長距離を飛ばすのに魔力が多く必要とするらしいんだけどな。」
俺の手元を覗き込むだけで分かったのか、隼人が問い掛けてきた。
「はい。まだ試作段階ではありますが、空気の疎密波を信号に変換して魔力に乗せます。そして物理的な構造物……この場合は魔石ですが、それを媒体として記憶させた相手に送信する事が可能です。」
「ふうん。それって君が考えたの?」
「あ、いえ。魔王様の御提案です。」
「そっかぁ。あ、ここをこうしたら……。」
何故か隼人が酷く興味を引かれたらしく、俺に良く分からない会話をニコラと始める。
ん?ニコラの言っていた事も良く分からなかったが、隼人の専門用語はもっと分からないじゃないか。
二人があれこれ煮詰めている横で、俺とダミアンは互いに顔を見合わせて首を竦めるだけだった。




