2.魔王として何をしましょう─7
俺は、振るおうとしていた氷の槍を身体の正面で留め、即座に魔力を集中する。
「風壁─前方へ─。」
そして前方を意識し、風の壁を作った。
ガガガガガガガッ!
一瞬間で凄まじい音と振動が、鼓膜を圧迫する程に襲い掛かってくる。
鼓膜、破れそう。
だが耳を押さえている暇もなく、体勢を整えたダミアンの刀身が横から迫っていた。
「んなろっ!」
風壁は前方にしか作らなかった為、俺はすぐに自分の持つ氷の槍で応戦する。
だが渾身の力で振るい、ダミアンの刀身と氷の槍がぶつかった時、僅かに氷の破片が飛んだ。
やはり、良い剣相手では分が悪い。
俺はダミアンの刀身を弾き返すと、大きく後ろに飛躍する。
「ふふふふふ…。良いですねぇ、魔王様…その表情。」
ダミアンは右手に剣を持ったまま、左肩の傷口を搾りながら撫でる。
モワモワと黒い霧が放出されているのが、その動かぬ証拠だ。
対する俺は、炎装で身体を包み込んでいる為、外傷は一切ない。だが疲労は少なからず蓄積されているし、何より精神的にキツかった。
同時に複数の魔法を行使する事は、かなり負荷が大きいらしい。
「あぁ…、貴方に突き刺して、深く抉って、掻き回したい…。」
はぁはぁと呼気を荒くし、刀身を舐めるダミアン。
いかん。変態度合いがマックスだ。コイツ、自分の血を見ると、豹変するタイプか。
M気質がS気質になってないか?
「この15禁野郎が…。お前になんか負けるかよっ。」
ビシッと指差し、宣言する。
だいたい、負けたら何をされるか分かったものじゃない。
「良いですよ、魔王様。その心意気は認めます。ですが、わたくしは強いですよ?」
余裕からなのか、フワリと綺麗な笑みを見せるダミアンだった。
ムカツク。コイツを傷付けた事を少しだけ反省したけど、もう良い。徹底的にやってやる。死ななければ問題ないだろ。
俺は自らの知識を振り返る。
腕力では勝てそうにない。それならば、魔法しかないだろ。
「泣かせてやるよ。」
「啼かせてあげましょう。」
俺の言葉をそのまま返してくるダミアンだったが…、何だか妙な感じがした。
くそっ…コイツ、本当に足腰たたなくしてやる。
ってか俺、本当に一番強いんだよな?ちょっと不安になってくるじゃないか、インゴフ~。
一瞬弱気になって、ここにはいない魔法士を恨んだ。
いかん、いかん。気持ちで負けては、勝てるものも勝てなくなるじゃないかっ。