3.魔王に喧嘩を売ってはいけません─3
「俺に婚約者がいようといまいと、隼人が取り乱す理由はないよな?」
「あ……、うん。そうだよね、うん。」
とりあえず落ち着いた隼人である。
「よし。改めて聞く。俺と隼人の関係は?」
「親友っ。無二の親友だっ。」
「……強化しなくて良いから。それと、そこでブツブツうるさいぞダミアン。」
にこやかに断言する隼人に僅かに脱力しつつ、俺の斜め左後ろに立っているダミアンの呟きに突っ込んだ。
コイツの変態度は嫌と言う程知っているが、立場はただの宰相である。嫁でも恋人でも、況してや愛人とか有り得ない。友でもないしな。
「お前は魔王である俺の宰相だよな?」
「はっ。魔王様より御選び頂いた喜びを忘れる事はありません。」
問い掛ければ急に背筋を伸ばし、そして恍惚と頬を赤らめた。
いや。お前以外宰相向きでなくて、もっと酷かったからだよ?──って言うのはやめたけど。
「それならいちいち周囲を牽制して業務に支障をきたすな。ドアルの件も隼人の件も、宰相としての範囲を逸脱してるだろ?」
「は……、はい。」
「分かったな?」
「はっ。」
曖昧な返答は不要とばかりに俺は強く問う。そしてダミアンもそれに従い、ハッキリと答えた。
本当に疲れる。
「魔王様。お茶をどうぞ。」
ドアルがそう言って目の前に差し出した紅茶は、俺の気に入っているリンゴの甘い香りがするものだった。
「ありがとな、ドアル。」
「勿体無き御言葉、痛み入ります。」
その香りにホッとしつつ、ドアルに笑みを返す。
彼は当たり前のように頭を垂れるが、隼人とダミアンが呟いた。
「……何か複雑な気分?」
「わたくしもです。」
「隼人、ダミアン。分かってるよな?」
自分の眷属が啀み合う事程愚かなものはない。
俺は不穏な発言に威圧を持って問い掛け、強制的に二人に首肯させた。
そもそもが王城に戻ってきたのは情報収集の為である。隼人とダミアンのおかしな衝突のせいで忘れがちだったが、人族との抗争をなるべく早く鎮静化させなくてはならないのだ。
「ダミアン。ニコラを呼べ。」
「はっ。」
ダミアンに指示を出し、俺は空を睨む。
とりあえずニコラを呼んで、魔道具で四魔将軍と情報を共有させなくてはならないのだ。しかしながら今彼等を呼び戻す事は避けたい。
まだ人族の動きが読めない為、国境周辺の警護を疎かには出来なかった。
「蒼真。とりあえず休んだら?ずっと動きっぱなしじゃん。」
「あぁ。だがまだ休んでいる暇がない。早急に手を打たなくては、こちらが後手に回ってしまう。」
俺の焦りに気付いているのか、隼人の気遣わしげな視線が痛い。
でも悪いが俺は魔王だ。この国を守らなくてはならない。




