3.魔王に喧嘩を売ってはいけません─2
「魔王様がいつ貴方を弄んだのですか。」
鋭い視線を投げ付けるダミアンである。
というか、お前の怒るとこはそこ?
「だって僕の純粋な心を引き付けては捨て、引き付けては捨て……。」
「いや、ちょっと待て。隼人の言ってるのは友情の事だよな?ダミアンは主従だろっ?」
思わず突っ込んだ俺だった。
端から聞いていると怪しい事この上ないではないか。
「ホッホッホ、仲の宜しい事ですな。」
そんな俺達に生温い視線と笑みを向けるドアルである。──マジでやめてほしい。
「ともかくもここは人目が多く御座います。痴話喧嘩は室内の方が宜しいかと存じますが如何でしょうか、魔王様。」
「……分かった。」
「ではご案内致します。」
もはやドアルの言葉に反論する気力をなくした俺は、睨み合う隼人とダミアンをそのままに後に続いた。
勿論言わずとも勝手についてくる彼等なんだが。
「で、そもそもがどういった理由なんだ?」
大きく溜め息を吐きながら、深く腰を落としたソファーに身体を預ける。
ここは俺の執務室であり、防音対策は当たり前だが更には物理・魔法攻撃共に耐性を強化してあるのだ。
「僕の蒼真がっ。」
「わたくしの魔王様がっ。」
二人同時に何故か初めから白熱している。
しかしながら発言内容に疑問符が湧き出るのは何故だ。いや、俺は正常だよな?
「待て。誰が誰のだって?」
「「………………。」」
俺の剣呑な空気を察したのか、二人ともに口をつぐむ。
「隼人にも先に言っておくけど、俺は婚約者がいるから。」
「えっ?!」
おかしな空気に頭痛を感じつつ、俺はまだ明かしていなかった事実を告げた。
というか、何故か物凄く驚かれたけどな。
「何でっ?いつっ?」
「ん~……、いつだったか。こっちに来てから結構早いうち?」
「そうですね。四魔将軍を決定する前でしたから、本当にこちらにいらしてからすぐの事でした。」
驚愕に目を見開く隼人に、俺とダミアンの追い討ちである。
しかしあの時は本当に魔王知識も引き継いで間もなかったし、誘拐事件の後でバタバタしていたのもあったのだ。
「な……何で……。僕ですら婚約を断っていたのにぃ~っ。」
「いや、それと俺が何の関係?」
勇者として喚ばれた隼人を縛る為に、人族が婚約者をつけるのは分からなくもない。
「だって僕の心を……。」
「ちょっと待て。落ち着け、隼人。俺に固執している理由は、母親と同じ色を俺が持っていたからだろ?」
俺は隼人が取り乱す前に誘導尋問的な問い掛けをした。
「え……?」
「恋愛感情じゃない。そうだよな?」
「恋愛?……まぁ、僕は男だし。ん?」
混乱している隼人には悪いが、ダミアンと変態を競ってもらっても困る。
酷く執着されていた事は神力核の時に彼の心理を見せられて知ったが、それだからといっておかしな感情に魅入られても納得がいかないのだ。




