3.魔王に喧嘩を売ってはいけません─1
「お帰りなさいませ、魔王様。」
「あぁ、戻った。変わりはないか?」
「はっ。」
ダミアンが変化した巨鳥を出迎えたのは、魔族の中で執事っぽい役割をしている亜族樹人種のドアル・ハザ。
見た目は全体的に木っぽいが有能で、彼は瞬発力がない分持久力は半端ない。
普段はダミアンが俺の身の回りの世話を行ってしまう為、あまり周囲にはいないのだ。本来ならば宰相のダミアンがする仕事ではないのでドアルだけで事足りる程なのだが、どうやら追い払われているらしい。図体がデカイ割りに狭量な奴だ。
「……誰、この人?」
「ドアル・ハザで御座います。以後お見知りおきを。」
訝しげに問い掛けてきた隼人に、俺が答える間もなくドアルが綺麗なお辞儀と共に自己紹介をする。
「ふうん。僕は隼人。あ、そっちの鳥の人。それ僕の荷物だから。」
だが隼人はすぐにドアルから興味をなくしたようで、気のない返事をした後にダミアンが持っていた布袋へ手を伸ばした。
って言うか、『鳥の人』って……。
「隼人。コイツの名前も分かってるだろ?」
「ん?そりゃ、何度も蒼真が呼んでたからね。でも僕に関係ないし。一応個別認識はしてるから良いでしょ。」
半ば呆れたように問えば、良い笑顔で返してくる。
これ、わざと言ってるな。
「ったく……。何拗ねてんだよ、隼人。らしくないな。」
俺は小さく溜め息を吐いた後、隼人の首に腕を巻き付けるようにして茶化した。
「っ!僕らしいって何さ?蒼真が僕の前からいなくなって、どんな気持ちだったのか分かるっ?」
「お、おぉ……。」
突然スイッチが入ったように喚き始めた隼人に俺はたじろぐ。そんな態度を急変させた隼人を前にして、ダミアンとドアルに緊張が走った。
──ヤバイ。
そう思った俺は即座に彼等を視線だけで制し、自分より少しだけ背の高い隼人の頭を力任せに撫でる。
理由としてはダミアンとドアルが隼人を俺の敵と認識した場合、俺の意思と反してでも抹殺しようとするだろうからという危機感からの誤魔化しだ。
「ちょっ。やめてよ、蒼真っ。」
案の定、嫌がる口振りではあるものの先程の怒気は霧散する。首に腕を回している為に出来る荒業だった。
「か、髪がクチャクチャになるってばっ。」
「大丈夫だって。お前の髪はサラサラの手触り最高な羨ましヘアーなんだから、手ぐしですぐ元通りさ。」
そう口にしながら髪に指を通してやると、隼人の髪は元通りのスタイルになる。
そして同時に少し拗ねたような照れたような隼人の完成だ。でも俺的には大成功な気分で。
「な?」
「……本当に蒼真ってば、僕の事を弄んで。」
笑顔を向ければ、何やら聞き捨てならない言葉が聞こえる。
は?何を言っているんだ、隼人は。俺がいつ……と思っていたら、何故か今度はダミアンから不穏な空気を感じた。




