2.魔王はカウンセラーではありません─10
『今俺は城に向かっているが、誰か詳細は分かるか?』
こちらとしては各員がそれぞれの言い分だけを告げられても判断しかねる。
俺はその場にいないのだから、もう少し細かな内容が知りたいのだ。
『人族ってば、神力をなくしたみたいよぉ?』
そこへ情報の機微に通じるミカエラからの言葉。
信じがたい内容ではあるが、それが故の突然の撤退なら意味が分かる。何せ、魔王への唯一の対抗手段が神力なのだから。
「隼人。人族が神力をなくしたって情報があるけど?」
「え?……あ~、本当だね。僕への神力核を蒼真が魔核に変えたからかな?『祈りの力』が物凄く不安定になってる。」
視線で俺に問い掛けていた隼人に告げれば、更に驚きの展開になっていた。
「マジで?ってか、隼人分かるのか?」
「うん、何となくだけどね。神力でこっちの世界に喚ばれたからかな。波長は読めるよ、使えないけど。」
どうやら隼人は、魔族としての素敵進化をしたようである。
「凄いな、本当。ってか、神力が弱まってるって反撃のチャンスか?」
『魔王様。いかがなされますか?』
『あ、コンラート。それに皆もだが、深追いはしなくて良い。逃げる人族は放っておけ。未だ完璧には『魔力吸いの銀粉』を攻略していないんだ。とりあえず国境を越える事なく待機。』
『『『『了解』よぉ~。』しました。』だぜ。』
四人のそれぞれの返答があり、念話が終了した。
何だかな急展開だが、俺の神力核侵略が原因だって?
「大丈夫?蒼真。混乱してるって感じだけど。」
「あ~……、まぁ何とか。けど、隼人の神力核への攻撃で一体何が変わったんだ……?」
俺は隼人に曖昧に頷き返しながらも、一人思考に入る。
魔王知識の中にも過去に神力核が複数個使用ってものは存在しなかったし、根本的に魔族への転身が成功した例も少ないのだ。──まぁ、魔王が直接行った事例もなかったが。
『魔王様。神力核の複数個使用は互いへの反応から悪影響が出るとの事でしたが、今回はそれがこちら側に優位に働いたのではありませんか?』
『なるほどな。俺が二つを同時に魔核へ変えた事で、神力の源である祈りの力に勝ったという解釈か。』
ダミアンも色々と考えていたらしく、風に乗って羽ばたきを止めてから念話を送ってくる。城まではまだ少し掛かるだろう。
「隼人。魔力はどうだ?安定してるならもう暴走の心配はない。とりあえずいずれ四魔将軍とも会ってもらうけど、その前に人族の国に遠征だ。」
「あ、うん。僕は大丈夫だよ。蒼真からもらった魔力は凄く身体に馴染んでいるし、前よりも調子が良いんだ。」
確認すると隼人は笑顔で答えた。これでこちら側のウイークポイントは『魔力吸いの銀粉』だけである。
ちなみにそれすら、『神力』が不安定になっている今は使えない代物になっていそうだが。




