2.魔王はカウンセラーではありません─9
「どうしたの、蒼真。」
硬直していた俺に真っ先に気付いたのは隼人で、肩に置かれた温かい体温に我に返る。
ダメだ、現実逃避している場合じゃない。
「人族が魔族の国に特攻を開始したらしい。ミカエラが知らせてきた。」
「えっ?もう?早くない?」
「四魔将軍は何をしているのですか。」
俺の報告に驚く隼人と、苛立ちを見せるダミアン。
まぁ、ダミアンの怒りも分かる。人族相手に何やっているんだと発破を掛けたくなるさ、俺だって。
『蒼真ぁ。わっちも頑張ったのよぉ?』
『とりあえずミカエラの報告は分かった。こっちは勇者を魔族に引き入れた。追って連絡する。そっちは被害をなるべく最小限に留めるように尽力してくれ。』
『勇者ぁ?……何だか分からないけど、やってみるわねぇ~。』
ミカエラの真剣味のない返答を聞き、彼女との念話が終了した。
しかし、一難去ってまた一難である。
「大丈夫?蒼真。」
「ん~……、何をもって大丈夫と言うんだかな。ダミアン、城に翔べるか?」
隼人からの問い掛けに苦笑で返しつつも、今は一刻も早く城に戻らねばと思い至った。
「勿論でございます。」
「頼む。隼人も行くぞ。」
「あ、うん。」
ダミアンに先程の大型の鳥になってもらい、俺は隼人と共に魔王城に引き返す事にしたのである。
「でも蒼真。人族は何で急に魔族国に進行を開始したんだろうか。僕への……勇者への説明では、四魔将軍を引き付ける為に国境で戦闘を続けるって話だったけど。」
ダミアンの背で不思議そうに隼人が告げた。
「つまりは、人族自体は魔王と直接戦闘する気はなかったって事か?」
「うん、だって敵わないし。『魔力吸いの銀粉』だって、祈りの力で変質させたものだからね。基本的に人族は聖職者がいないとまともに魔族と対抗出来ないんだよ。ダメダメだよね。」
呆れたように俺が問い返せば、勇者だったとも思えない辛辣な隼人の言葉である。
まぁ事実なのだろうが、神力核の縛りがなくなった隼人の毒吐きっぷりは思った以上だ。
「でもその銀粉は結構なダメージを与えてくれたぞ?」
「まぁ、吸血鬼を思い浮かべて僕が提案したものだったし。本当に効果があるとは思わなかったけどね。」
思い出して苦い顔をすれば、何と隼人の進言だったのか。
さすがにあれには頭を抱えたぞ。
「思い付きにも天性の才があるんだな、マジで。まぁ終わった事は今更仕方ないが……。」
『魔王様。人族の様子がおかしい。』
『魔王様よぉ。人族、どうなってんだぁ?』
『突然の散開ですぞ?』
隼人との会話の最中に割って入ってきたアルフォシーナの念話に、フランツとコンラートが続いた。
何だか忙しいマルチ会話モードである。




