2.魔王はカウンセラーではありません─6
「あ……?」
思わず間抜けな声を出してしまった。──だがそれもやむを得ないだろう。
今まで隼人を目の前に、真っ黒な空間で会話をしていた筈の俺。それがいきなり世界観が変わったのだから、戸惑うのも仕方がないと思うのだ。
「魔王様?」
「んぁ……やぁ、ダミアン。さっきぶり?」
困惑したような声を掛けられて見やれば、思った以上に近いところにいた銀髪である。
物凄い心外なのだが、真上を見る感覚で見上げなくてはならないのでアホっぽい声が出た。
「御無事で何よりでございます。」
「ぅおっ?!危ねぇってのっ。」
見上げる程の距離感にいながら、勢い良くその長身を折り曲げるダミアンの頭部から飛び退く。
コイツ、デカイ角を標準装備しているって忘れてるのか?思い切り頭を殴られるところだったぞ。
「あ、申し訳ございませんっ。」
「……良いって、もう。それよりも。」
再度振り下ろす勢いで謝罪され、俺は呆れを多分に含みながらも視線を隼人へ移した。
「はい、魔王様。彼の周囲を取り巻いていた神力の力は徐々に薄れ、今は魔王様の魔力に包まれております。」
ダミアンの言葉通り、目の前の隼人は様子こそ先程と変わりなく浮いている。しかしそれまで彼を覆い隠そうとしていた虹色の膜は姿を消し、俺の流し込んだ闇魔力を纏っていた。
これは成功と言えるのだろうか。
容姿は隼人のままであるが、強いて言えば髪の色が焦げ茶色ではなくなっている。そして何故かアッシュ──と言えば良いのか、灰色の髪になっていた。
「神力核の気配を感じないし、ちゃんと魔核になったと思うけど……。おい、起きろって隼人っ。」
目覚めてくれなくては、不安は拭いされないものである。
魔力が暴走して容姿を変えた訳ではないから失敗とは言えないが、如何せんこのままでは確認がとれないのだ。
「……ん……。」
俺の声が聞こえたのか、薄い反応が返ってくる。
恐る恐る近付いていけば、ダミアンの空間魔法が溶けるように消えた。俺の繋いだ闇魔力はそのまま現状維持ではあるが、力を注いでいるというよりは彼を支えていると言った方が良い。
そしてユルユルと開かれた瞳の虹彩は金色──魔族であった。
「おぉっ。隼人、喜べ!」
「……ん~、うるさいよ蒼真。朝から元気良すぎ。」
「いや、朝じゃねぇし。」
気付けばいつの間にか夕闇が迫る頃であり、結構長い間隼人の精神世界にいた事が分かった。
だがそれも些細な事である。
「おい、身体は何ともないか?」
「え?……あぁ、そういえば頭も痛くないし。良く寝た感じで、気分も良いかも。」
確認するように身体を動かす隼人に合わせ、俺は闇魔力を操作して地面に立たせてやった。
うん、見た感じは大丈夫そうかも。