2.魔王はカウンセラーではありません─5
「隼人っ。」
「……うるさいね、本当にもう。」
再度叫べば、突然後ろから呆れたような声音で返答が返ってくる。
「ぅおっ?!」
思わず跳ぶように振り返れば、寝起きのようなぼんやりとした表情の隼人がいた。
髪を無造作に掻きあげながら、『ふわぁ~』と大きな欠伸をしている。確かに俺的には見慣れた隼人の寝起き風景である。
この何でも出来る親友は、寝起きだけはとことん悪いのだ。目覚ましなんて、物凄い大ボリュームでも効果は見込めない。それで寝ていられるなんて、俺にしてみれば本当に神がかっているとしか思えなかった。
「相変わらずな寝起きの悪さだな。それで良く勇者してられるよ。」
「うるさいよ、蒼真。勇者に早起きは求められないから良いんだっての。大体、僕は蒼真の声でないと起きられないの知ってるだろ?」
茶化してみれば、さも当然とばかりに返される隼人の台詞である。
携帯の着信音が俺ボイスだなんて、モーニングコールさせられていた俺も知らなかった。──知ったのは高校に入って少し経った頃だし。
「いや、マジで有り得ねぇから。それで彼女と長続きしないの、誰得よホント。」
「良いんだよ、そんなの。僕が何を着信音に設定しようが、他人にどうこう言われる筋合いないって。」
肩を竦めて見せても、開き直っている隼人に全く効果はなかった。
本当に俺好きすぎて困るっての。
「まぁ、こっちじゃ携帯はないけどな。」
「そうなんだよね。科学慣れしてる僕等にとって、時代遅れすぎて嫌になるよ。まぁ、携帯なんて蒼真がいなくちゃ必要なかったけど。」
ニコッと笑みを浮かべる隼人に、俺は戸惑いを隠せない。
隼人の言葉は嘘がないと分かっている分、俺は対応しかねるんだよな。
「あ……、そう。マジでコメントに困る。ってか、起きたならここから出ようぜ?」
「ん?……そういえばここって何処。」
俺の提案に、漸く現状を察する隼人。
でも映画館のように暗い空間では視界の確保も危うい訳で。現時点で俺達を照らしているのは、先程の隼人シアターだけなのだ。
「ん~……、お前ん中?」
「何それ、エロいんだけど。」
「いやマジ、その発想が有り得ん!」
高校時代に戻ったかのようなやり取りをしている俺達は、あの時とは少しばかり纏う色合いが変わっただけである。
そしてマジマジと見ると、やはりあの頃より少し大人になった隼人が目の前にいる訳で。
少し悔しいとか思う俺って、何だか狭量だよなって思ってしまった。でもこんな形であったにしろ、隼人と再会する事が出来て本当に良かったとも思える。
よし。もう少し頑張るか、俺。