2.魔王として何をしましょう─6
「…素晴らしいです、魔王様。この僅かな間に、凄まじい勢いで成長しておられる。あぁ…、ゾクゾクしてきます。」
滞空したまま、ダミアンは己の身体を抱き締める。
ってか、上気した顔でこっちを見ないでほしい。
「うっせぇ。余裕な顔して、俺の攻撃を受け流すお前が悪い。」
フンッと鼻で笑ってみせる─が、実のところ、ダミアンの肩から流れる黒い霧が気になっていた。
出血…、だよな?
俺が攻撃した事で、彼を傷付けたのだから。
勿論、これほど人に力を振るうのは初めてだった。
当たり前だが、生まれて此の方、武器を他者に振るった事がない。
平和な日本で育った俺にとって、あるのは拳のケンカくらいだからだ。
「…どうかなされましたか、魔王様?」
氷の槍を見ていた俺に、怪訝そうにダミアンが問い掛けてくる。
ってか肩、痛くないのか?余裕だな。
「別に…。」
槍の尖端から視線を外した俺だったが、内心の動揺が伝わったのか。
ダミアンが何を思ったか、自らの肩口を絞るように右手で掴んだ。黒い霧がいっそう溢れる。
「あぁ~、この痛み…。久し振りでございますよ、自らの血を見たのは。」
「や、やめろよっ。ってか、やっぱり血だったのかよ。」
腕を伸ばして制するも、つまらない事を突っ込んでしまう。
「えぇ。我々魔族の肉体は、魔力で構成されていますからね。人族のように、体内を流れる液体を持たないのです。」
あまりにも当たり前のように告げられ、俺は驚愕に目を見開いた。
つまりは何だ?俺…は、血もなくなった?
自らの掌を凝視する。
「あぁ、魔王様はどうでしょうね。見て差し上げましょうか。」
大きな動作で両手を広げ、そしていつの間にかその右手に細長い剣が握られていた。
どうやら、それがダミアン本来の剣らしい。
「お力を試したいのでしたね。先程のお礼に、わたくしがお相手致しましょう。」
綺麗な弧を描く唇。
だがその金色の瞳は残虐な色を乗せ、弾丸のように俺に向かって飛んできた。
猛禽類が獲物を宙から狙い打つように、翼を折り畳んで高速で突っ込んでくる。
俺は咄嗟に、足に残していた雷電の魔力で左側に回避。だが氷の槍を振るう前に、ダミアンが身体を回転させ、俺に掌を向けた。
「氷針。」
静かにダミアンが魔法を唱える。
一瞬にして100を超える、10センチ程の長さの氷で形成された針が宙に現れた。
そして迷いなく、全てが俺に向かって飛来してくる。
マジかよっ?!