プロローグ─2
で、俺が見ちまったのは…一言でいうと、人ではない。そう、人外だ。
見間違いじゃないぞ?頭部に明らかな、クワガタみたいな角がある。ご丁寧に、ギザギザとした複数の出っ張りまでついている。
「どうかなされたのですか?」
不思議そうな顔で聞かれても、俺も困るんだ。
そう、顔は人とそう違いはない。むしろ、整った顔立ちであると言っても良い。しかも、銀髪ストレートのロン毛。
だが、その角は何だ。いや、それだけではない。今もバサバサと音を立てるそれは、他に言いようもない程、羽根だろ。羽、翼…そして俺は、人生初のお姫様だっこをされている。
フギャッ!大ダメージだ。
「…とりあえず、下ろしてくんない?」
俺が顔に片手を当て、唸っている事に疑問を持たれているようだが…今、それどころではない。
先程肉体に受けたダメージは今はなく、それよりも精神的ダメージが大きかった。
「お言葉ですが、現在地ではその行動は避けるべきだと思われます。」
丁寧語で反対される。
何だよ、理由を言えっての。
押さえた手の隙間から、俺が不機嫌な視線を向けたのが分かったのだろう。
「申し訳ございません、魔王様。」
俺を姫抱きしたまま、器用に頭を下げる人外。
いやいや、マオウって誰。…まさか、俺?
「認証の儀を執り行う前の貴方様では、この地は危険が多すぎます。ここはまず魔王城に戻り、認証の儀を…。」
俺の困惑をよそに、つらつらと話を続けている人外。
って、おい。
「待て。マオウ、って誰だ。俺は逢見蒼真だ。」
突っ込み所満載だが、とりあえず名前を名乗ってない事に気付いた俺。
そもそも、落下を止めてくれたのはこの人外だろう。
見てくれはともかく、俺に丁寧語で話している事もあり、即危害を加えては来ないと思う。…思いたい。
「魔王様は、魔王様にございます。オーミー、ソーマダと仰るのは…。」
「逢見、蒼真。」
「オゥーミィー、ソーマ…?」
何だその、腐ったような外人訛りは。そんなに俺の名前、発音が難しいのか?
ってか、何故日本語が通じている?俺、日本語しか話せないし…。
「ともかくです。一度、魔王城に戻っていただきたいと存じます。」
俺の名前を呼ぶのを諦めた人外は、開き直って言い切った。
「俺はマオウとかじゃないって言ってるだろ、人外。」
「ジン、ガイ?…いいえ、わたくしの名は、ダミアン・ルーガス・ヘイツにございます。」
思わず鋭く言い返してしまった俺だったが、そこは気にしていない様子。