2.魔王はカウンセラーではありません─2
──あ……れ?
不意に気付いた時は既に、俺は一人で暗闇の中にいた。
それまでダミアンがすぐそこにいて、彼の作り上げた空間魔法を使って神力の膜に包まれた隼人へ闇魔力で接触していた筈である。
辺りを見回したが何も認識出来ず、恐らくは立っているのだろうがその感覚すらも曖昧だった。
「隼人?」
とりあえず親友の名を呼んではみたものの、当然の如く返答はない。
考えろよ、俺。──確か『神力核』を闇魔力で侵食している最中に、突然脳内で何かが爆発したように光が弾けたんだ。
そこまで思い出したところで、急に目の前の空間に映像が浮かび上がる。それは巨大スクリーンのように宙に浮いて存在し、古い映画のように幾つもの線が入った不鮮明なものだ。
しかし、映し出された人物に俺は釘付けになる。──何故隼人の両親が……?
その疑問はすぐに判明した。
高速道路だと思われる場所を運転していた車は、突然反対車線から目の前に飛び込んできた別の乗用車と激突。揺れる視界、飛び散るガラス。
匂いがないのは勿論だが、その音もない映像が隼人の視界なのだと──俯せに倒れた時に映った小さな手で分かったのである。
それは隼人の左手の甲に今でも残る、中指付け根から手首に向けての大きな傷痕。両親を失った事故で負ったものだと、小学校二年生で耳にしていた。
その後からの映像は色もなくなる。白黒の世界の中で、少年の隼人は病院にいた。そして合間に両親の葬儀。児童養護施設。
母親の妹夫婦に引き取られるまでの半年にも満たない期間ではあったが、心を閉ざしたらしき隼人少年の痛みが映像を通して感じられる。
次に色が付いたのは、ニパッと満面の笑みを向ける少年が映った時だ。──いや、これは俺なので妙に気恥ずかしい。
隼人が神島姓になり、俺の住む町に引っ越してきた。そこからが俺と隼人の出会いな訳だが、どうやら彼が俺を初見で気に入ったのは理由があったようである。
それは──俺の瞳が彼の母親を連想させたから。
真っ黒な虹彩を持つ人は少なく、黒目黒髪と言われる日本人でも茶色や焦げ茶色が多い。その中で俺は黒目であり、隼人の母親も同じ色を持っていた。
切っ掛けはそうだったのだが、俺と隼人はとても気があったのも事実である。悪友となるのに時間は掛からず、学校でもプライベートでもつるんでいた。
そして俺は気付く。
──あぁ、これは隼人が俺に固執する理由か。
俺の瞳が金色になってもそれは変わらず、もはや彼にとって『蒼真』は失えない家族なのだろう。この映像を見ているとそう思う。
これ程まで俺の姿を視線が追っているとは、さすがに気付かなかったが。