2.魔王はカウンセラーではありません─1
蒼真が隼人の神力核を闇魔力で染めようとしている中での、とある人族の国──。
「一体どうなっているのだっ。勇者と同行した三人からの連絡はまだかっ。」
ここは王城の執務室の一つである。声を荒げたのは、この国の宰相だ。
王都内にある教会では聖職者が勇者召喚を行い、異世界から魔王と対する生贄を呼んでいた。しかしながら厳密にその時期は決まっておらず、ほぼ上層部の一存で決められている。
「はっ。魔族との国境付近では戦士と魔法使いと聖職者を発見との報告がありました。氷結にて拘束されておりましたのですぐに詳細を聞ける状態ではなく、只今彼等を教会にて治療中に御座います。」
腰に大きな剣を佩いた大柄な男は、苛立ちを隠さない宰相に報告をした。
彼は近衛騎士団長を任されているが、貴族ではなく叩き上げの平民である。その為この宰相のやり方を好ましく思ってはいないのだが、そこは仕事として割り切っていた。
「勇者はともにいなかったのだなっ?」
「はい。報告によりますと、その周辺では魔王と四魔将軍の一人とみられる魔族を見掛けたとありました。大地に戦闘の痕跡もありましたので、勇者一行と戦闘があった事は確実であります。」
勇者を平気で『あれ』呼ばわりする宰相に対し、内心の嫌悪感を欠片も出さずに事実のみを告げる騎士団長。
今回の勇者召喚も王族ではなく、この宰相が言い出したものだと知っている。
前回の勇者が魔王を討伐してまだ日も浅いというのに、新しい勇者を喚び出したのだ。合わせて、聖職者によって『神力核』を二つも埋め込まれていると耳にしている。
知り合いの聖職者から聞いた情報では、通常勇者へ『神力核』は一つ埋め込まれる。理由は勇者たる力を与える事と、こちら側への反発を抑える意味があるという事だった。
だが、それが今回は二つ。『神力核』同士が反応しあい、悪影響を及ぼす事もあると聖職者の誰しもが知っている筈なのにである。
「役に立たない情報だなっ。わたしが知りたいのは勇者の居場所だ。叩き起こしてでも、同行者から聞き出せっ。それと『祈りの力』をもっと注げ。『魔力吸い』の銀粉も大して魔王には効かなかったのだ。もはや勇者の使い道は『祈り』しかない。」
「はっ。」
騎士団長は一方的な宰相の罵倒にも反論せず、深く頭を下げてから退室した。そして医務室へと足を向けながらも考える。
何故こんなにも今回の勇者に固執するのか。何故『神力核』を二つも埋め込んだのか。
これ等は宰相の指示であったと知り合いの聖職者から聞いている為、何らかの思惑がある事は確かだった。
そもそもが勇者召喚の異世界設定をしてきていて、『魔王の髪』を媒体に使ったというのである。何処からそれを手に入れたのか謎だが、その理由も不明のままだった。
確か、今度の魔王は人族に似た容姿をしていたと思う。騎士団長はそれくらいしか魔王に対しての情報を有してはいなかった。