1.魔王と神力─10
「大丈夫ですか、魔王様。」
少しだけ声のトーンを下げるダミアン。
俺が今の行動をやめる気がない事を悟ったのか、その場を動かずに空間魔法を維持してくれている。──察しが良くて本当に助かる。
「まぁ、何とかな。神力核に触れた途端、こちらの同じ部位に衝撃が走った。恐らく神力と繋がったが故の反応だと思うが、これも聖職者側の抵抗なのかもしれないな。」
隠していても仕方がない為、俺は素直にダミアンに現状を伝えた。
偽る事は簡単だが、俺に協力してもらっている分、虚偽は裏切り行為だと思ったからである。
「聖職者の抵抗ですか。これだけ術者との物理的な距離を置いてもなお、その様な力があるとは思ってもおりませんでした。わたくしの情報不足の為です。申し訳ございません、魔王様。」
「大丈夫だ、そもそもお前の責任ではない。」
深く頭を下げるダミアンに、俺は軽く右手を振る事で許しを与えた。
今も痛覚を刺激されている俺だが、先程の息が詰まる程の衝撃はなくなっている。こっちにも抵抗するだけの力はあるのだ。そうでなくては反する性質のものに手をかけたりはしない。
神力と魔力はそれほどまでに互いを拒絶しているのだ。
「続けるぞ。」
「はっ。」
意識を切り替える為にダミアンに声を掛け、再び隼人の内部に集中を向けた。
現在は神力核に俺の闇魔力が触れているだけである。それを更に奥へ闇魔力を浸透させる為、神力核の外壁を突き破るべく力を込めた。
ドクン──と心臓が大きく波打つ。
神力は聖職者の力の証であり、魔王を唯一打ち破るものである。実際には戦闘要員として勇者が宛がわれているが、これは単に聖職者は戦闘能力を持たない為だ。
魔王知識では神力という名の祈りの力を自らに蓄える為に、日がな一日薄暗い教会内で神に祈るという。──うん、立派なモヤシの出来上がりだ。
それでも魔王の魔力と実質的な対抗馬でもある神力故に、強い力を使える奴は重宝される。勿論それ相応の修行的な厳しさはあるだろうが。
それはさておき、当たり前ながら俺は聖職者に良い感情を抱いてはいない。魔王知識があるから余計だろうが、隼人にした仕打ちが許せないという勝手な理由が一番だ。
──ってか、マジで痛いな。
俺は心臓や頭部に感じる痛みに意識を持っていかれそうになりながらも、同じ痛みを感じているであろう隼人を思う。
魔族になりたいなんて言っていたけど、この世界で人族として勇者をやっていて何かあったのかもしれない。まぁ、人族は色々な柵があって面倒なのは何処の世界でも同じかもだが。
うん、俺が魔族だからっていう単純な理由じゃないって思おう。