1.魔王と神力─9
「魔王様。繋がります。」
「お、おう。」
ダミアンの呼び声に意識を戻す。
そして彼の造り上げた、目の前にある掌サイズ程の円形空間の歪みを認識した。その中は初め湯気のように空気が揺れているだけだったが、徐々にはっきりと奥が見えるようになる。──そこには水鏡のように一枚隔てた向こう側で、苦痛に歪む隼人の顔がはっきりと映し出されていた。
俺は迷う事なくその先へ闇魔力を向ける。神経を研ぎ澄ませているからか、実体でない筈の魔力が隼人に届いたのが感覚で分かった。
そのまま彼の体内で神力の核を見つける為に検索する。──見つけた……が、何故だ。脳内に一ヶ所、心臓近くに一ヶ所ある。
「いかがなされましたか、魔王様。」
何で二ヶ所もあるんだよと思ったのが顔に出たらしく、ダミアンに訝しげに問われてしまった。
「……二ヶ所ある。」
とりあえず偽っても仕方がない為、正直に告げる。
同時に俺は頭の中で、魔王知識と比べつつ一人問答していた。解決策を必死で模索する。
「二ヶ所、ですか。人族の聖職者も悪辣ですね。普通は一つに絞りますが。」
大きく息を吐きつつ、ダミアンが告げた。
やはりというか、同じ事を俺も魔王知識を見て思ったさ。異なる世界から呼び出した『勇者』に植え付ける核は、過去を遡ってみても一ヶ所のみだ。──つまりは何を考えて複数ヶ所に植え付けたのか。
「……考えたって仕方がない。とにかく、隼人の中にある神力を消すだけだ。」
はっきりと告げると、ダミアンが僅かに眉根を寄せた。
「御意に。わたくしは御手伝いをするのみです。」
「……ありがとう、ダミアン。」
「勿体無き御言葉。」
礼を告げ、ダミアンの造り上げた門から更に凝縮させた闇魔力を差し込む。そして二つに割り、脳内と心臓近くにある『神力の核』に的を絞った。
ダミアンは俺からの謝意に勝手に感動して打ち震えているが、そこは完全スルーさせてもらう。だいたい、こっちは集中力がものを言うからな。
そうこうしている間に、隼斗の心臓近くの神力核に闇魔力が届く。──痛っ?!
何故か接触した瞬間に、俺の心臓付近に刺すような痛みがあった。だが一瞬怯んだものの、それに構わず脳内にある核にも闇魔力が届ける。
「ぐっ……!」
思わず苦痛が口から漏れ出た。意識を集中させる為に左手を隼斗へ伸ばしていたのだが、突然の衝撃にガクリと腕が下がる程。
「魔王様っ。」
駆け寄ろうとしたダミアンに右手を差し出す事で動きを制する。
だがすぐに俺は動けなかった。
肩で息をしつつ、闇魔力の集中力が途切れないように心掛ける。ダミアンが指摘した通り、俺は意識していないと魔力が纏まらないのだ。
己の内にある強大な魔力に呑まれ、結果的に魔法としての効果を出せなくなる。操作性──マジで危ういのだ。