1.魔王と神力─8
「はい、その通りでございます。」
良くできましたとばかりに、笑顔で小首を傾げつつダミアンが答える。
何だかそれにすら苛ついてしまう狭量な俺だが、現時点で自分が使えない魔法を今どうこう言われても困るのだ。
「で、それをお前が代行すると?」
「はい、その通りでございます。」
更なる笑顔。──笑顔がムカつく事ってあるんだな。初めて知った。
細く息を吐き出し、何とか怒りを流す。
ここでキレるな俺。多分ダミアンは、勇者を助けるっていう俺に不満があるんだろう。──そう思わないとやってられない。
「分かった。隼人に俺の魔力が届くなら、彼を傷付けない限りは方法を任せる。頼まれてくれるか。」
真っ直ぐダミアンを見上げ──身長差と気分から下から睨め付けるような態度になるが──、はっきりと『お願い』として口にした。
「はい、畏まりました。勿論承りますとも、魔王様。……ところで、そのお顔はとても嗜虐心を唆られますふふふふふふふ……。」
「お、おい。余計な事に意識を飛ばすな、ダミアン。」
にこやかに首肯しつつも、何故だかおかしな笑い声をあげ始めたダミアンに引く。軽く後退りしてしまったじゃないか。
突然『Sスイッチ』が入るのはマジで怖い。
コイツは通常Mなくせに、変なところでS変化しやがる。っていっても、S化したのは俺と腕試しした初めの頃くらいだな。俺も忘れてた。
「これは失礼致しました、魔王様。ではわたくしめが勇者への亜空間を繋げます故、魔王様はあの者へ如何様にも接触をしてくださいませ。」
頭を垂れての恭しい態度ではあるが、口角が上がっている為に腹の中が黒く見えた。
だが、現状ダミアンを頼るしか術がない。──俺の魔力では弾かれてしまい、隼人には届かないのだから。
「頼むぜ、ダミアン。」
名前を呼んで念を押し、俺は自分の闇魔力に集中する。
隼人の中の『神力の核』を探しだし、それを闇魔力で染める事が俺の仕事だ。魔王知識でそれ──『魔核』──を造り出していた情報を思い浮かべる。
ある魔王の時代には魔核実験が多く行われていて、ただの獣を魔族にしようと試みた生命実験が悲惨な結果を出していた。
その内容から察するに、強引に魔力を注げば核が変質して歪な物になるらしい。魔核が歪めば肉体の形成もうまく行かず、魔獣並みの知能と能力しか得られないようだ。
更に成功率はとても低く、魔力提供者が高位の魔族でないと生存率すら下がるらしい。──結果的にほぼ賭けになる。それでも種族を殖やそうとしたかったようだ。
そういった経緯も繁殖力の弱い魔族故なのだろうが、人間だって人体実験を散々やってきた過去がある。
いつの時代も何処の世界でも、常に世界の強者は弱者を食らう摂理なのだ。