1.魔王と神力─7
「お~い、帰ってこいダミアン。ところで実際問題として、隼人を傷付ける事なく神力は取り除けるのか?」
自分の世界に入っているダミアンを引き戻しつつ、俺は目下の一番の課題を問い掛ける。
魔王知識の中では、ほぼ力業だったのだ。多少相手が傷付いてもやむ無しレベルでこちら側の魔力を注いでいたから、魔族に出来上がった後の勇者は見てくれが変わっていたのである。──冗談じゃなく、隼人にそれは出来ない。
「そうですね。お力のみで言うならば、勿論わたくしよりも魔王様の方が質も量も大きいです。しかしながらまだこちら側の世界に来られてから日数の浅い魔王様は、完全に馴染んでいらっしゃらない為か操作性が若干不得手のように感じられます。」
宰相としての観点からか、ダミアンは現実に戻ってくると真面目に答え始めた。──本当に、仕事は出来るんだよな。変態だけど。
そして『日数が浅い』『操作性が不得手』という部分に、思わず頷きそうになる。
俺の魔力は『全』──光。闇。火。風。雷。氷。水。土。これら八つの性質を持っているし、使える。だがイメージ重視の為か、通常魔族達が使う魔法とは影響も効果も異なるのだ。
「亜空間もまだ習得されていらっしゃらないのですよね。」
「あぁ、欲しいとは思ってるがな。」
問い掛けに苦い表情になる俺。
簡単な事のように言うが、俺が知っている限り亜空間収納が出来るのはダミアンとアルフォシーナだけだぞ。
「亜空間は強大な力を持つものならば、難なく造り出せる空間なのです。それでも使える者が限られるのは、単純に力量の問題ではなく操作性に特化するからです。要は、亜空間を維持出来る魔力操作が必要なのですよ。」
ダミアンが教師の如くうんちくを垂れるが、俺は聞きながら眉根を寄せていた。
何だ、それ。その言葉通りなら、俺にも亜空間自体は造れてるって事か?
「操作魔力の質は何と決まっている訳ではありませんから、『風』であっても『水』であっても構いません。魔王様は一番馴染んでいる『闇』が宜しいですね。無意識であっても貴方様を御守りする魔力ですから、操作性を持たせる事も容易いかと思われます。」
「……俺に足りないところは分かった。でその話が出たって事は、亜空間を使うのか。」
そう、ダミアンが言葉を区切る。
にっこり笑顔で言われても、説教されている気になるのは気のせいではないだろう。
俺は要約して改めて問い掛けた。──少し不機嫌が声音に乗るのは勘弁してくれ。