1.魔王と神力─6
「それで魔族にする為に、過去の魔王は当時の勇者に宿っていた『神力の核』を使ったらしい。」
俺も隼人を助けたい一心で、魔王知識を探りまくって漸く見つけたのだ。
「神力に核があるとは知りませんでした。」
「あぁ。どうやら異なる世界から勇者として召喚する為に必要な物らしくて、こっちで聖職者が『勇者』として使う為に埋め込む『鍵』のようなものだ。それがある事で聖職者の言葉にも異を唱えず、知らず知らず自らの命を使いながら勇者として利用されるらしい。」
真実を知れば知る程胸糞が悪くなるが、こちらの世界ではそれが当たり前の事である。
倒してもいずれまた現れる強大な力を持った魔王と、それを討伐し得る強大な力を持たせられる勇者。
都合が良い事に、互いに元はこの世界の存在でないなど極一部の者しか知らないのだ。単なる『駒』としての利用である。
「なるほど……。さすが魔王様です。わたくしのような矮小な存在とは異なる、偉大な……。」
「ちょっと待て。お前が小さいとか言うな、イヤミかそれ。」
ダミアンが自分の世界に入ろうとしたところで、俺の感情を逆撫でする単語が発生したので思わず止める。
俺より頭一個半デカイ奴からのその台詞は、かなり違和感あるだろ。
「……あぁ、魔王様。貴方様の背丈が御小さい事など些細な事ではありませんか。」
ダミアンは俺の言葉の意味を正確に受け取ったらしく、改めて禁句を放った。
く……っ、これは種族的な違いだっての。2メーター超えの巨人に言われたくないぞ、ボケ。
「だから、小さい言うなって!……とにかく、だ。神力の核に触れるには、俺が隼人へ直接魔力を通さないとならない。」
そうなのだ。今の彼には神力の靄が壁となり、指一本触れる事が出来ない。
目の前で親友が苦しんでいるのに、手を伸ばしても届かないもどかしさ。
「そうですね……。貴方様のお手が他者へ伸ばされる事を考えれば、何やら沸々と湧き出す感情を覚えますが。それが魔王様のお望みとあれば、わたくしも喜んでお力添え致しましょう。……そうして陰で涙を呑む健気なわたくし。あぁ、それも中々に宜しいですね。」
何故だかうっとりと表情を緩ませるダミアンだった。
ダメだ、コイツの思考が理解出来ない。
溜め息を吐きそうになった俺だが、今これを敵に回しては後々困る。
突っ込みはこれが全て丸く収まってからにしようと心に誓う。何だかもう、このシリアスなシーンに似つかわしくないコメディなやり取りになりそうだからな。
俺も大人になったものだ。