1.魔王と神力─5
「魔王様。あれを覆っている闇魔力を一旦解除してくださいませ。魔王様の御力が神々しく、未熟なわたくしには神力との繋ぎ目が見えにくいのです。」
申し訳なさそうな表情のダミアンだが、俺はその言葉に首を傾げる。
というか、何だ『繋ぎ目』って。
「解除は出来るが、見えたらどうだと言うんだ。」
「はい、魔王様。わたくしがそこから断ち切ります。」
答えが返ってくる前に、隼人を覆う神力ごと包み込んでいる闇魔力を解除しようとしていた俺だった。しかしながら、ダミアンのその物騒な返答に思わず固まる。
『切る』って事はあれだよな、物理的にって意味だろ?
「おい。」
「どうかなされましたか、魔王様。」
言葉に乗せられた俺の怒りが通じたのか、逆に不思議そうに小首を傾げられてしまう
いや、待てよ。怒鳴るのはストップだ。
いくらコイツでも、俺が隼人を大切に思っている事は知って……いるよな?いや、どうなんだろう。分かっているのか?
「一つ聞くが。お前は隼人と俺をどう見ているんだ?」
「はい。倒すべき敵であると認識しております。」
訝しげに問い掛けた俺に対し、良い笑顔で答えるダミアン。
これは自分が間違っているなどと思ってもいないのだろう。いや、本来ならばそうあるべきなのだ。『魔王』と『勇者』なのだから。
「悪いな、ダミアン。それは外れだ。」
「……と、申されますと?」
はっきりと間違いと示せば、さすがのダミアンも困惑を見せる。
「俺と隼人が旧知の仲である事は察していると思うが。」
「はい。これまでの経緯から、魔王様が人族であった頃の同郷であると考察いたします。」
順を追って示さなくては、魔王の宰相たるダミアンはこの人族を認めないだろうと思った。
「今は魔王と勇者という立場に別たれているが、コイツは自ら魔族になる事を求めている。つまりは俺の仲間だ。俺の仲間はダミアン、お前とも仲間だよな。」
「それは……そうでしょうが。」
戸惑いを隠せないダミアンである。
強引に仲間入りさせようとしている存在は、魔王至上主義の彼にとって絶対に内側へ引き入れたくない筈の勇者だ。
「隼人が魔族になれば、お前も問題ないよな?」
「勇者が魔族に……。」
「魔王知識によれば過去に一度ではあるが前例もあるし、今回は本人もそれを希望している。」
何とか言いくるめようとしている感が滲み出てしまうが、要は勇者が勇者でなくなってしまえば良い。結果が全てだ。
「……畏まりました。それでわたくしは何を行えば宜しいでしょうか。」
「あぁ、お前は……。」
「失礼ながら、その前に魔王様。わたくしが宰相である事は変わりないのですよね?」
指示をしようとしたら、何故か素敵笑顔を向けられた。
何だ、今更。
「当たり前だろ?」
「安心致しました。ふふふふふ……。」
即答すれば、今度は不気味な笑い声が聞こえる。
え……俺、間違ってないよね?