1.魔王と神力─4
ダミアンが湖の畔に到着するや、俺は飛び降りるようにして隼人に駆け寄る。
すぐさまダミアンが人形に形状を変化させていたが、俺は自分が包み込んだ闇魔力ごと隼人に巻き付く神力の膜へ手を掛ける事しか考えられなかった。
そして強引に剥ぎ取るつもりで指先を差し込むが、これが中々に強固でびくともしない。
隼人、隼人、隼人隼人隼人!
奪い返せとばかりに無茶苦茶な動きで腕を振り回しながら、虹色の神力へ闇魔力を注ぐ。
「魔王様。お止めください。」
「っ、放せ!」
脇の下から突然ダミアンの腕が差し込まれ、強制的に数歩後退させられた。
それでも俺は隼人を解放する事しか頭になかった為、逆にダミアンに怒りを向ける。
「魔王様。わたくしでしたら如何様な罰も受けます。ですが、少しばかり冷静に御成り下さいませ。」
体格差から囚われの宇宙人状態になって吊り下げられている俺だが、静かに耳元で訴えられて歯軋りしながらもダミアンを振り返った。
そうまで言われて怒りをぶつける訳にもいかない。
「…………。」
「……っ、分かったよ!だから放せっ。」
視線を向ければ無言で返され、とりあえず大きく深呼吸をして己の中の怒りを強制的に流す。
まぁ、完全に冷静にはなれなかったがな。
そこで漸く気付いた己の血だらけの指先。堅牢な守りを指先で抉じ開けようとしていた為、左右それぞれの五指の爪が殆ど残っていなかった。
「あ~……、何やってるんだ俺。」
溜め息を吐きながらも、闇魔力で指先を包み込んで治療する。こうしておけば自然治癒能力が飛躍的に上昇するのだ。
ってか、そりゃダミアンも止めるよな。
「悪かったな、ダミアン。」
「いいえ、わたくしは何も。」
「はぁ………………。ダミアン。あの神力を破りたいんだが、手伝ってくれるか。」
再度一つ大きく息を吐き、真っ直ぐダミアンに視線を向けた。
その途端、蕩けるように表情を崩すのはやめろ。やはりダミアンはダミアンだ。
「とにかく、あれには闇魔力も通らない。」
咳払いをして己の気分を立て直しつつ、目の前の虹色の球体に視線を向ける。
隼人は未だに神力の靄に包み込まれたままだ。
現在は仰向けの状態で宙に浮いているように見えるが、その顔色はあまりよろしくない。祈りが力という割りには、彼に与えている環境は好ましくなかった。
まぁ、俺が無理矢理闇魔力を突っ込んだせいかもしれないが。