1.魔王と神力─3
『ダミアン!手荒くなっても良いから急げっ。』
『はっ、かしこまりました。』
念話でダミアンに指示をすると同時に、俺は翼を形成する為に使っていた闇魔力を隼人へ向ける。
勿論攻撃が目的ではなく、彼を診断する為だ。
翼が徐々に崩れ、黒い魔力が隼人を包んでいく。
高度を下げつつ半ば落ちるようにダミアンが湖方向へ飛んでいく中、シャボン玉色の靄に包まれて苦しむ隼人を闇魔力で完全に包み込む。
あ……これ、マジでダメなやつだ。直接──肉体ではないが──触ってみて、ピリピリと刺すような感じがする。
魔力で触れているからこれは不思議なのだが、実際に俺の神経が刺激されている感覚を受けた。
だが、これが神力か。
魔力とは全く異なる力であり、見聞きして知った知識とはやはり違う。まるで水と油だ。混じり合う事なんてないと断言出来る程、それは異質だった。
それでも彼を救いたい。もう会えないと思っていた向こうの世界の、しかも親友だぞ。更に今は本当に手の届くところにいるんだ。見捨てるなんて選択肢は当たり前ながら存在しないだろ。
俺は魔王知識に深く潜り、神力の粗を探す。
何処かにあるはず筈だ。そもそも完璧なものなんてない。
闇魔力で包み込んでいる隼人の呼吸が弱くなってきた。焦りだけが俺の心を苛む。
多分聖職者から離れた事に原因があるとは思うけど、『祈り』って事は何でも良いのだろうかと疑問に思った。
試しにというよりは藁にもすがる思いで隼人の回復を祈る。肉体的にも精神的にもコイツを傷付ける事など許さない。
それでも神力によって阻まれた俺の闇魔力は、彼に届く気配すらなかった。だが、先程までとは違う隼人の反応を感じる。僅かではあるが、呼吸が穏やかになったのだ。
『ダミアン、あとどのくらい掛かる?』
『あの森を越えればすぐです。』
念話で確認すれば、目の前に見える木々の塊の向こうだと言う。
だが、それを越えたら遠慮なく神力を打ち破ってやる。今の状態では魔力操作のみで対応せざるを得ないし、尚且つ効果がいまいちだからだ。
「隼人、勝手に戦線離脱とか勘弁だぜ?」
魔王知識に神力についての細かな情報はない。過去の魔王達も、聖職者とは直接の戦闘はなかったようだ。
まぁ、『魔王VS』といえば『勇者』なんだろうけどさ。
って言っても、俺は隼人を勇者としては見てないんだけど。
これって、インゴフ辺りの知恵なのかな。勇者が人族なら魔王も人族から出そうだなんて、ある意味魔族をバカにしてる気がしなくもない。