1.魔王と神力─2
俺がダミアンの巨大な脚に胴体を鷲掴みにされている隼人を観察して、漸く分かった事。
それは、隼人を包み込むようにシャボン玉色の靄が存在している事だった。
しかもそれは彼を掴んでいるダミアンの脚部にも絡み付き、ジワジワとその色を浸透させていっている。
「何だ、あれは……。」
思わず呟いてしまった俺に、隼人が不思議そうな視線を向けてきた。
「どうしたの、蒼真。」
「いや、ダミアン……この鳥の脚がだな。」
説明しようにも、現状を把握しきれていない為に尻窄みになる。
「大丈夫だよ?この鳥、力加減してくれてるから爪も食い込まないし。」
どうやら思い違いをしているようで、隼人は笑顔を返してきた。
いや、まぁ。それも心配ではあったんだけど、今はそれより変な靄がだな。──ってか、隼人には見えてないのか。
「隼人。具合が悪いのは頭痛だけか?」
「え?うん……、息苦しいのは空の上にいるからだと思うし……。」
問い掛けに小首を傾げながら答える隼人には、やはり自身の周囲にある靄は見えていないようだ。
『ダミアン。湖まで持ちそうか?』
『はい、魔王様。しかしながらこの……火で炙られるかのような熱と痛みは、中々に心地好く御座います。』
こっちはダメだな。
恍惚とした口調からして、既に違う意味ではあるがあれの影響を受けているようだ。
本当にこの変態は、ところ構わず己の欲望を満たそうとする。
『そうか。それならば目的地に着いた後、俺がお前を消し炭にしてやる。』
こっちは心配して聞いているのに、って思ったら知らず威圧を放っていた。
『も、申し訳ございません魔王様。魔王様のお力に触れる事より心地好いものはこの世に存在しませんので、どうぞ御安心下さいませ。』
『そんな言葉はフォローにならんっ。』
思わず拳でダミアンの背中をどつく。
だがその打撃に対して鳥形なのに、はぁはぁと興奮している様子が分かった。
根本的に反応がおかしいのは理解しているが、本気で対応に困る。
「な、何だか鳥の動きがおかしいけど……大丈夫かな?」
「気にするな、隼人。こんなのは通常モードだ。それよりも……。」
「……っ。」
俺が言葉を続ける前に、突然隼人が苦悶の表情を浮かべた。
体調を気遣った内容の問い掛けを行う前の変化。隼人の苦しむ顔とは別に、俺の視界に映るシャボン玉色の靄が濃くなっている事に気付く。
やはり、このシャボン玉色に何かあるようだ。