6.魔王のあり方─10
『魔王様。そろそろこちら側の決着がつきそうですが、いかがいたしますか。』
黒クワガタを通じてダミアンから念話が入る。
とはいっても、ダミアンの方は三人の人族相手に全く本気すら出せない状態だったが──本気を出したら明らかに瞬殺だ。
『あぁ、悪いな。こっちに合わせてもらって。まだ終わってないけど、お前はソイツ等の動きを封じてこっちに来ても良いぞ。ただし、俺の邪魔はするなよ?』
『かしこまりました。』
待てを解除したら、直ぐ様駆けつけてきそうな様子のダミアンだった。
念話ですら尻尾振る大型犬が見えそうなのは面白かったぞ。
「何、蒼真。僕といながら、別の誰かの事を考えてるの?妬けちゃうな。」
「はあ?隼人はそんなキャラじゃないだろ。」
「さあ、どうかな。蒼真がいなくなってからの僕は……。あぁ思い出した、三年も経ってたんだよ。その間の僕の気持ちも今思い出したから、凄く蒼真に抱きつきたい衝動に駈られてるんだけど。」
ダミアンとの念話で苦笑をこぼしていたら、何故か拗ねたような顔をした隼人に絡まれる。
しかも話を聞いてみれば、ウチの変態を連想させるような言葉だ。
どうした、隼人。
「ってか、三年?マジかよ……。こっちと時の流れが違うんだな……。俺はまだ一年も経ってなくてさ。」
「そうだよ三年だよ、三年?あ~……、何だか悲しくなってきた。」
驚く俺と逆に、隼人は目頭を押さえる。
いや、そうしながらも聖剣を振るうっておかしいだろ?
「ちょ、待てよ隼人っ。危ないってのっ!せめて前を見ろってっ。」
おかしな突っ込みをしながらも、俺は闇魔力の剣で聖剣を受け流していった。
とはいっても、そろそろ場所を替えないとヤバい。
戦の最中とはいえ、戦闘職ではない人族も引き込もってばかりではないからだ。
先程からチラチラと遠くからこちらを伺っている気配が三。行ったり戻ったりを繰り返している気配も合わせれば、既に十は下らない。
「……隼人。うちの部下が戻ってくるから、場所を替えないか?」
「ん~……、そうだね。何だかさっきからコバエが鬱陶しいし、僕もどうしようかと思ってたところ。」
やはり隼人も気付いていたようだ。
僅かに困った表情を浮かべるも、言っている内容はかなり辛辣だったりする。
それほどに、人族が勇者へ向ける希望が大きいのだろうけどな──期待に応えてあげられないのだが。
「いっそのこと、僕をさらっていく感じでいく?」
隼人が踏み込んできた為に、俺達の距離感はほぼゼロになった。
そこで小声で告げられた提案に、俺は思わず悪い笑みをこぼしてしまったのである。