6.魔王のあり方─9
俺は魔王としてこの世界に召喚されて、様々な経験をした。
いきなりただの高校二年男子に国を統治しろなんて、マジで無理ゲーかとも思ったがな。
それでも何とか宰相と四魔将軍を決めて、流れとはいえリミドラと婚約もした。
宰相は変態だが仕事は出来るし、魔族としてもトップレベルの強さを持っている。
四魔将軍達はそれぞれが個性的で、初めは何かと衝突というか問題が浮き彫りにされた。それも何とか解決して、最終的には俺という魔王に忠誠を誓ってくれている。
人族との問題は最後の壁だ。
人族と勇者は切っても切れない関係性にあり、今回の勇者を退けたところで次が差し向けられる事も過去の魔王知識が訴えている。
魔族の中には人族を食糧とする種も存在している事は確かだ。だが、逆に人族も魔族を狩って食料にしている。
これは自然の摂理であり、力ある二つの種族が世界にある故なのだから仕方がないとも言えた。
「っ!」
隼人の聖剣が俺の頬を掠める。
互いに全力で戦っている為か大地は俺達の魔法などの被害を受け、黒焦げのクレーターで酷い有り様になっていた。
それでも自分達はまぁまぁの体裁を保っているところを見る限り、冗談抜きにもかなり丈夫なのだろう。
「ほら、左が空いてる。」
「っせ!お前は足元が疎かだよっ。」
互いに嫌みではなく、本気で指摘しながらの攻防だった。
剣と魔法の両方を駆使したぶつかり合いは終わりを見せず、もう空は茜色に染まってきている。
「……何かさぁ、僕の頭の中にベールで隠されたような部分があるんだよね。」
戦闘をしながらも口を開く余裕があるようで、隼人は時折眉を寄せながら首を捻っていた。
恐らくそれが『神力』による拘束なのだろうが、相手方の感覚なのではっきりと断言は出来ない。
「それで?その頭を俺にカチ割って欲しいとか言うなよ?」
俺は闇魔力の剣を大きく振り払い、一度隼人と距離を作った。
しかしながらこれだけ魔力を放出しているのに、俺の中の魔王としての力は衰えるところを知らない。
同じく勇者である隼人も、人族でありながらも全く魔王に引けを取らない持久力と魔力だった。
「うん、さすがに頭を割ったら死んじゃうだろうし。そうしたらもう戦いは終わりでしょ?僕はまだ本当に蒼真の事を思い出せた訳じゃないけど、直接蒼真と接する事で『記憶の封印』が弱まっているんだろうね。凄くモヤモヤするけど、何だか面白い現象だよねぇ。」
さも楽しそうに告げる隼人は、少しだけ困ったような笑みを浮かべる。
終わりが寂しいのか、思い出せないのが悔しいのか。
俺としてはどちらにしろ、自分との関わり合いを求めてくれているようで嬉しかった。