6.魔王のあり方─6
「は……はは……っ。馬鹿みたいだ。僕は自ら進んで引き受けたと思ってたけど、それは断るという事が考えもつかなかったからなんだね。」
表情がひきつったまま、泣き笑いのような呟きをこぼす隼人。
ここに喚ばれてから『勇者』と崇められ続ければ、誰だって気が大きくなる。
「まぁ、俺も立場的には似たようなものだがな。」
思わず自嘲が漏れた。
ただの学生だった俺は、今は持ち上げられて魔族の頭になっている。
インゴフが言うには、魔王と勇者は大きく違うらしい だがな。
「そっか。……で、オーミは俺の欠けた記憶でもあるんだね。」
隼人はいきなり結論に辿り着いた。
確かに、俺に関する記憶があると魔王討伐に支障が出るからなのだが。
「さすが隼人。頭の回転の良さは相変わらずだ。」
「……蒼真、なんだ。」
独り言のように呟いた隼人は、それまでの複雑な表情も引っくるめて全ての感情がこそげ落ちたかのようだ。
うん、久し振りに聞いたな。今じゃ、ミカエラくらいしかその名を呼ばないし。ってか、発音が出来ない。
「勇者にもう一つ、重要な欠点がある。」
「…………まだあるの?」
うんざりしたような顔をする隼人は、俺と二人っきりの時しか出さない素の表情だった。
普段は体裁を気にして計算し尽くされた隼人を演じているから、正直俺はこっちの方が断然好ましい。
「残念な事にな。『界を歪めて渡ってきた勇者には本来在らざる力を与えられるが、対価としてその命を削る』。」
なるべく感情を乗せないように言葉にした。
これは本当ならば本人には告げたくなかったのだが、たぶん今の隼人ならば潰されたりはしないだろう。
そう、思いたい。
暫く無言で向き合っていた。
俺達から離れた向こう側の地では、ダミアンが珍しく楽しそうに遊んでいる。まるで、鼠をいたぶる猫だ。
「……はぁ。僕って、自分の二つの願いは自分で叶えたい派なんだよね。」
一つ大きく溜め息を吐き、妙にさっぱりとした顔で俺に告げる隼人。
待て。隼人の願いは何だ。
一つ。俺の自己満足でなければ、『俺に会いたい』と思ってくれていた事。
いや、それは現時点で叶ってるよな。自分で叶えたって事になってるような、なってないような気はするが。
で?もう一つは何だ?
「僕が勇者である限り、蒼真の負担になるなら……。」
「お……おおおおい、ちょっと待った!」
何かがおかしいぞ。何故いつの間にか聖剣を手にしてる隼人が、自分の首に刃を当ててるんだよ。