6.魔王のあり方─5
「……何処からその言葉を聞いたのかな。」
『ゲーム』という単語を聞き、さらに警戒を強めて目を細める隼人。
後ろ手に地面に付いた手は、悔しさからなのか握り締められている。
彼の聖剣は倒れた時に数メートル先へ飛んでいってしまっていた。
「ん?素直に答えてやるならば、それは他者の言葉ではないと告げよう。」
「っ!?」
目を見開く隼人は、俺の言葉の意味を正確に読み取ったのだろう。
「……まさか、魔王も本当にこの世界の人間ではないというのか。やたら僕の記憶に掠めるような部分があると思っていたけど、嘘でもなく世界が同じだったなんて。」
隼人は初めて、自分と同じように召喚されてきた相手が、『勇者』としての戦うべき『魔王』なのだと知ったようだ。
当たり前だが、人族がそんな事を勇者へ告げる筈もないからな。
「俺の姿は、魔王継承の後に全ての人族の国へ知らされている。当然、人族に非常に似た姿である事もだ。」
「僕はそんな事は聞いてないよ。」
「だろうな。」
魔王の姿を人族に知らせるのは儀礼的なものだが、万が一にも失礼のないようにという思惑もあった。
だから全ての人族が知っていて当然であり、知らせる義務も各人族の国王は担っている。
「そこにいる隼人の楽しい仲間達も、当然知ってるだろうな。」
「……そうなるね。……僕が魔王の事を聞いた時には、黒を纏った闇魔力を使う魔族だって答えだったよ。」
大きく溜め息を吐き、隼人は知らなかったのが自分だけだったと落胆した。
確かに隼人は、俺と別れる際にそんな事を言っていたからな。
それでも、『まさか魔王だなんて』的な切り返しだった。
「それでオーミは、僕の記憶の齟齬についての情報を何と引き替えにするのさ。」
「……ただでも良いぜ?」
「やめてよ。ただより高いものはないって、僕はこの世界に来てから嫌という程身に染みてる。」
座り込んだままの隼人は立ち上がる事すらしない。握り締めていた手も、今では力なく丸められているだけ。
もはや抗う気力がなくなったのか、ただたんに休憩中かだ。
「OK、良く聞け隼人。『勇者は拒絶を封じられている』んだ。」
「……『拒絶』?確かに、僕はここに来てから嫌だなと思った事は何度もあるけど、NOとは言わなかった。」
「知らない世界の救世主に祭り上げられたのに?」
「そう……だね。テレビやゲームの中ならいざ知らず、実際に自分の命を危険に曝してまでやるべき事じゃないね。」
俺の言葉を受け、隼人は己の行動のおかしさに気付く。
創作物に慣れ親しんでいる俺でも、もしも『勇者』として『魔王』と戦えなんて言われてOKなんて言わないと断言出来るのだ。