6.魔王のあり方─4
「楽しいね、オーミ。」
「どこがだ。」
くすくすを笑い声をこぼす隼人に、俺は吐き捨てるように返した。
だが実際、本当に楽しいと思えている自分がいる。
前に鬼族のレジスやルフィノと戦った時は感じられなかった高揚が、隼人との真剣勝負にはあるのだから。
「やっぱりオーミ、剣道を知ってるでしょ。」
「関係無いだろ。」
もはやどうでも良いと思えるそんな事にすら、隼人は笑みで問い掛けてきた。
もしかして、自分の記憶の齟齬に気付いているのか?
以前に隼人は思い出せない記憶について語っていたのである。あれからの月日の中で、それが何であるかに気付き始めているのかもしれないと淡い期待を持ってしまった。
「何だ。大事な何かを思い出したのか。」
「っ。……覚えていてくれたんだ。」
剣先に乱れが生じる程、隼人は動揺している。
俺が覚えていた事が嬉しいのか、それとも見失いかけている自分に動揺しているのかは不明だ。
「まぁ……、あの時の共闘は面白かったからな。」
人族の振りをして魔物と戦ったあれは、魔王としてこの世界に喚ばれた俺には本来あってはならないものである。
それでも隼人との大切な思い出の一コマになっていた。
「あの時は本当に楽しかったね。でも、僕の記憶はまだ正常ではなくてね。どうしてかなぁ。記憶力は良い方なんだけどなぁ。」
互いの剣を合わせながら、俺達はまるで世間話をしているかのように会話する。
聖剣と闇魔力の刃は鋭い打ち合わせで火花を放つ程なのにだ。
「その理由を教えてやろうか。」
首を捻る隼人に、俺は意地悪そうに問い掛ける。
もしもその原因が自分を喚び付けた人族にあるとして、彼はどのような反応を示すのだろうか。
そんな純粋で悪質な思惑があった。
「え~、何でオーミが知ってるの?オーミは魔王でしょ。何故人族の事にそんなに詳しいのかなぁ?」
訝しげに眉根を上げる隼人。
さすがに警戒はしているらしい。
「あぁ。俺は魔王を継承した時に、過去全ての魔王の記憶を知識として引き継いだからな。」
「わぉ。そんな風になってるんだ、魔王って。じゃあ、何前年も前から続くこの詰まらないやり取りも全部?」
「そうだ。『ゲーム』のようだろ?」
素直に驚いてくれる隼人に気を良くした俺は、こちらの住人では知り得ない『単語』を告げた。
そしてその途端、動転して非常に分かりやすいミスをした隼人に剣先を突き付ける。
「降参するか?」
笑顔で問う俺は、表面上ではとても余裕ぶって見えたかもしれない。




