2.魔王として何をしましょう─4
「武器を取れ、ダミアン。」
鍛練場の中央へ歩いて行きながら、俺はダミアンに声を掛ける。
「魔王様、何をなさるのですか?」
当たり前のように左斜め後ろをついてきながら、やはり理解はしていなかったようだ。
俺が考えをイチイチ言わなきゃ、まともに対応出来ないのかよ。
その問いに答える事なく、俺は腰に佩いた長剣─ここに来る前に装備─を抜刀する。
あ、ちなみにこれ、本物ね。ちゃんと刃をつけてある、斬れるヤツ。
「魔王様?」
俺の抜刀に、僅かながらダミアンの目が開かれた。
コイツが遣り手と知識で知っていたって、実際に俺が目にしなきゃ信用出来んっ。
有無を言わさず、一息に剣の間合いに入る。だがその軌跡が横一線を描く事はなく。それは未だに俺の手元で、甲高い金属音を放っている。
つまりは、ダミアンに受け止められたのだ。
だが彼の帯剣は完全に抜刀されておらず、俺の剣を腹部辺りで鞘と鍔の間で止めているにすぎない。
ギチギチと鍔競り合いをしていたが、ダミアンが抜刀する気配はなかった。
「余裕じゃん。俺相手に、抜刀する必要もないって事?」
接近戦で睨み合うと、ダミアンの綺麗な弧を描く眉が僅かに上がる。
ってか、身長差が半端ないんだけど。…ムカツク。
そういう俺は、剣道を授業で少し囓った程度。
それでも本物の長剣を振り回せるって事は、魔王としての記憶と力のおかげだろう。
実際、金属の剣は重い。平和な日本育ちである本来の俺の腕力じゃ、とてもじゃないが一度振るうのが限度だろうな。
「魔王様…。」
「何、俺が魔王だから?それ、鍛練場では必要ない事だよな。」
何かを言い掛けたダミアンを制し、俺は言外に本気を出せと告げた。
更に力を込め、鍔競り合いの状態を弾き返す。
いつまでも均衡していては、本領発揮といかないではないか。
「火球。」
僅かに空いた隙をつき、ダミアンの足元に魔法を放つ。
「っ?!」
さすがのダミアンも焦ったようで、当たらないと分かっていても、弾かれるように後退した。
「誰も、殺し合おうなんて言ってないだろ。鍛練に付き合えと言ってるんだ。お前がやらないなら、他の奴を捜すだけだぞ。」
ダミアンに長剣を突き付け、睨み付ける。
「わ、分かりました、魔王様。…他の奴等に、魔王様のお傍は譲れません。」
後半は何を言ったのか聞き取れなかったが、漸くダミアンもやる気になったようだ。
今まで鞘に納めたままだった剣を抜き、真っ直ぐ俺に構える。
ってか長身なだけあって、刀身も長いな。ムカツクじゃん。