6.魔王のあり方─3
「ふうん。それ、僕にとって身近な感じのする形だね。」
隼人が俺の持つ剣を探るような視線を向けてきた。
記憶が何処まで制限されているのか分からないが、剣術が出来る事を考えると剣道を忘れている訳ではないだろう。
「そうか。俺は創造力豊かでな。」
俺は日本刀に酷似した闇魔力の剣を正面に構えつつ、余裕ぶって笑みを浮かべる。
実物なんて歴史博物館で見たくらいだが、こちらの世界に良くある幅広の刀剣類とは明らかな違いがあるのだ。
「創造力ね。その構え方からしても、僕の知っている武術を連想させるものなんだけど?」
「構わないだろ。俺の戦い方に、お前の何が関係しようとも。」
隼人の探りに応える気はないとばかりに、俺は両手で構えた剣を突き付ける。
そしてゆっくりと高度を下げ、着地した。
「へぇ、意外だな。その高さを維持したまま戦えば、明らかに君の有利に事が運ぶのに。」
「見くびるな。完全なる排除が目的ならば、声をかける前に攻撃している。」
隼人の笑顔の中に純粋な驚きを見つけた俺は、自分の内心を探られないようにと目を細める。
長く親友をやっていたのだから、些細な機微で読み取れる感情が多いのだ。
「そっかぁ。それなら正面から来てくれる相手に敬意を表して、僕も少しだけ本気を出させてもらおうかな。」
隼人も正面に聖剣を構える。剣道でいうところの『中段の構え』だ。
剣先を相手の目に向けて構え、攻防を見極める。授業で習っただけではあるが、俺は比較的この武術は柔道なんかより全然興味を引かれた。
「ふふふ。何だか頭の奥がくすぐったいや。まるで記憶の中に君がいるようで、この対峙も初めてじゃない感じがするもの。」
楽しそうな隼人の声に、自然と俺も笑みが浮かぶ。
だが、これは竹刀なんかではない。
「おちゃらけているのも今のうちだ。行くぞ。」
注意を促す言葉を返してしまうのも、俺の中に隼人を傷付けたくないという思いが強いからだ。
遠くにダミアンと他三人での戦闘音を聞きながらも、全く高揚してこない気持ちを必死に奮い立たせる。
「そうだよね、分かってはいるんだけどね。」
隼人も俺の踏み込みに応じ、聖剣を振るった。
互いの刃がぶつかり合い、周囲に硬質な音を響かせる。
授業で隼人と何度も竹刀を合わせた記憶が蘇ってきた。
元々文武両道な感じの隼人だったけど、剣道部に入らないのが不思議なくらいに動きが良い。そして俺も、何故か剣道だけは先生から馬鹿に誉められたものだった。
でも、こうして真剣で隼人とやり合う為ではなかった筈である。
2018,01,25誤字修正