5.魔王は不死身ではありません─10
「それでも勇者は魔王に立ち向かうのだな。」
「惨めなものですな。『拒絶』を封じられ、抗う事を、忘れていればこそ、聖職者に反するなど、思いもしないのですよ。」
俺の半ば呆れたような言葉に、インゴフは衝撃的な事実を明らかにする。
確かに勇者はいつの時代でも、突然見知らぬ場所に連れてこられても戦った。自分とは全く関係のない人々の幸せの為、自らの命を省みる事なく。
『勇者だから』『はい、そうですか』で済む問題ではないだろうという事は、容易に想像出来る。怖いに決まっている、逃げたいに決まっているのだ。
出会った事のなかった自分より大きな魔族と、魔法が使えるとはいえ死なない訳じゃない。痛みもあるし、疲労も空腹も感じるのだ。
普通の人族より多少丈夫ではあっても、ただそれだけなのだから。
「俺も人の事は言えんが、勇者大概だな。」
「魔王様は、統治者であって、魔法玉ではありません。放ってお仕舞いなど、その様な軽い存在では、ないのですぞ。ワシ等魔法士が、全ての世界から捜し出す、唯一の主、なのですからな。」
自嘲してみせれば、心外だとばかりにインゴフが熱く語りだした。
なるほど。確かに使い走りではないな、魔王ってのは。それより、『全ての世界から捜す』とは大きく出たな。
「ここにいらっしゃいましたか、魔王様。」
そこへ漸くダミアン登場だ。
先程とは装いが異なる為、出掛ける準備万端とみて良いだろう。
ってか、ここに来る事は言った筈だが聞こえていなかったのか。
「よし、行くか。インゴフ、色々と参考になった。」
「はい、魔王様でしたら、いつでも御時間の、宜しい時に。ワシはいつも、ここにおりますのでな。」
再び来た時と同じ様に軽く手を上げ、礼を告げてダミアンと共に退室する。
魔王である俺は勿論不死身ではないが、勇者も不死身ではないのだ。
さて、どうやって隼人の力を削ぐか。しかも命を奪う事なく。
俺はダミアンを引き連れて外に向かいながらも、つらつらと考えていた。
「魔王様?」
「あぁ、悪い。少し考え事をな。それより、直行する形で良いか?」
「はい、わたくしは常に魔王様と共に。」
在り来たりな言葉にも、今の俺にとっては心強いものである。
「そうか。まぁ、変態発動しなければお前は一番強いからな。」
「ま、魔王様……。」
自然と笑みが浮かぶが、ダミアンの力は無条件に安心感を与えるだけのものがあった。
ただし、変態だがな。
2018,01,09誤字訂正