5.魔王は不死身ではありません─9
魔核の扉を開けると、当然のように薄暗い室内に身長5メートル以上の毛むくじゃら蛇がいる。
「インゴフ。少し時間を良いか?」
「はい、魔王様。お久しぶりに、ございます。あまりにも、お会いしないので、ワシは既に、忘れられてしまったのかと、思っておりました。」
軽く手を上げながら声を掛けると、黒毛むくじゃらの蛇はスルスルと身体をくねらせながら近付いてきた。
そんなインゴフは自分が魔核から出ずに引き込もっているくせに、俺が会いに来なかったと文句を言う。
いや、そこは違うだろ。
「筆頭魔法士は忙しいらしいな。魔核から出る事も叶わないのか。」
「ほっほっほっほっほ。魔王様に、してやられましたな。」
軽口の言い合いなので、互いに本気ではないのだ。
インゴフは大きな口を開けて笑い、ペロリと蛇の特徴ある細い舌を出す。
「して。何用でしたかな。」
「あぁ、インゴフは筆頭魔法士として長いんだろ?人族の聖職者について、何か知らないか?」
「人族の、聖職者ですか。」
俺が聞きたい事があって来たと分かっていたようで、向こうから話を振ってくれた。
無駄に時間を掛けても仕方がない為、単刀直入に問う。
「人族の、聖職者は、創造神を、崇め奉る、一方で、魔力を忌諱する、傾向が、あります。創造神のもたらした、魔力を忌み、神力至上主義を、謳っていますな。」
感情を乗せる事なく、事実のみを告げるインゴフ。
彼が言うにはこの世界の創造神は唯一神であり、崇める事はないものの魔族達も貶しはしない存在だ。
魔力そのものを与えたとされるだけあって、存在自体が魔力である魔族とは切っても切れない関係であると言える。
しかしながら神力は極一部の人族しか持ち得ない能力であるばかりか、魔力とは違って己の潜在能力に比例しないのだ。つまりは『祈りの力』を集めれば使える能力が増すという、ある意味無限のパワーなのである。
「マジか。それでも魔王討伐は勇者に任すってどんなだ。」
「相性の問題、でもありますな。神力は、攻撃特化では、ありませぬので、神力を使って、勇者を喚び、魔力を使って、対魔族の力と、するのです。純粋な魔力より、神力を帯びた魔力が、より強力であると、彼等は思っとるのですよ。」
過去の様々な魔王討伐に関する知識から、『神力』は人族が編み出したものである事は事実だ。
だがそれによって異なる世界から呼ばれた勇者は、必ず魔王に打ち勝つ訳ではない。己の人生を知らない間に犠牲にされ、勇者と崇められる事なく散り逝く者もいるのだ。
酷く理不尽である。