5.魔王は不死身ではありません─8
人族が勇者だけを盾にするのではなく、国まで出してくる理由は勝機があるからか。
そう考えれば今回の戦は『魔王vs勇者』ではなくなる。
「ダミアン。勇者の現在地は分かるか。」
「はっ。ただいま北西より、四方の人族国軍とは別行動にて接近中です。魔力量から推察するに、勇者他3名かと。」
問い掛けに当たり前のように返答が来た。
優秀過ぎて怖いがコイツの裏側には変態がある為、それでトータルを調整をしているのかとも思えてしまう。
ともかく、今は勇者──隼人と話してみなくてはならないと考えた。聖職者側が何を考えているのかは不明だが、『魔力吸い』の銀粉は神力で生成している。
「まさかとは思いますが、魔王様。御一人で勇者一行に会いに行くなどとは仰いませんよね?」
妙な威圧を含んだ問い掛けをしてくるダミアン。
今は魔王城に四魔将軍もいないのだ。宰相である彼が警戒するのも分かる。
だがしかし、一番早く解決出来そうなのは勇者側だろうと思えるのだ。それにどう逃れようとぶち当たるのであれば、俺的にはさっさと済ませたい。
「会いに行くよ。けど、一人でとは思ってないさ。」
ニッコリと微笑んでやれば、ダミアンがあからさまに頬を朱に染めて両手を組んだ。
何だ、その乙女ホーズは。自分よりデカイ奴にされたって、気色悪いだけなんだがな。──そもそも男だし。
俺はベッドから降りると同時に闇魔力を纏い、魔王の正装である学ラン系の詰め襟スーツを作り上げた。
「ダミアン。お前が来い。勇者を迎え撃ちに行くぞ。」
「は、はいぃぃいぃぃ~ッ。」
視線を向ける事なく告げたのだが、ダミアンは返答と同時に自分の世界に入ってしまったようである。
恍惚とあらぬ方を見て身体を小刻みに揺らし、何やら声を漏らしているのだから怖いものだ。
「ったく……。俺は魔核に行っている。」
とりあえず居場所だけ言っておけば良いとばかりに、俺はダミアンをそのまま放置する。
後始末は当たり前だが自分でやってくれ──俺の部屋を汚すなよ?──と言外に告げ、踵を返した。
魔核はインゴフの通常待機場所だ──というか、基本的にここから出ない──から、捜す手間は省ける。
彼に会うのは聖職者の情報を聞く為で、魔王知識にない事も筆頭魔法士ならば知っているかもしれないという淡い期待を抱いてだ。
ダミアンから報告を受けているが、出来ればもう少し踏み込んでみたい。
つまりは対処法のヒントを探しているのだ。
2017,12,31誤字訂正