5.魔王は不死身ではありません─6
「……ダミアンか。」
「はっ。」
掠れた声で問えば、ハッキリとした返事が返ってくる。
そして辺りを見回し、今いる場所が魔王城の私室のベッドの上である事を理解した。
身体が少し重く感じるが、闇魔力での治癒後はこんなもの。だいたい、これが自動発動するのは生命に関わる損傷を受けた場合だ。
「どうなった。」
「はっ。アルフォシーナからの預かり物を調査した結果、銀の粉末に神力を纏わせたものだと判明しました。」
端的な俺の質問にも、ダミアンは淀みなく答えてくれる。
本当に良く出来た宰相だ。
っと、『神力』って何だと思った瞬間に魔王知識の作動。魔力とは全く異なり、聖職者が使う人族特有の能力らしい。
おまけに勇者の能力も、専らこれが主流だとか。それ故、力で勝る筈の魔族の魔王が人族の勇者に打ち負ける事もあるって訳だ。
「って事は、勇者の力か?」
「いいえ、そうとは限りません。あくまでも勇者は魔力の遣い手。対して神力は聖職者に限った『祈りの力』の凝縮だと筆頭魔法士が仰っていました。」
ダミアンの報告を聞きながら、俺はゆっくりと身体を起こす。
怠いだけで、身体的異常は何もなさそうだ。
軽く身体を動かしつつ、今回の対策を考える。
「インゴフか。……アイツは触れたのか?」
「残念ながらすぐさま変色してしまいました。そもそも我々魔族に反応するようで、魔力の低い者にも反応します。唯一触れるのは空間魔法ごしでした。対象者は私とアルフォシーナ、他数名の魔法士のみです。」
かなり絞れてきているが、未だ状況は芳しくなかった。
「あれは魔力に触れると変色するだけじゃなく、周囲の魔力を吸収するだろ。人族の武器防具に銀粉が仕込んであるようで、魔族側の被害は再生能力すら奪われて悲惨な状態だ。」
「はい。アルフォシーナから報告を受け、各部隊には欠損部分の洗浄を促しております。水属性がいない場合は欠損部分の再切断を行っていますので、当面の問題は野戦糧食用の魔石確保でしょうか。」
どうやらダミアンの方でも事態は正確に把握しているようだ。
それでも魔石には生産量の限界がある。
「魔法士達が作るにも限界があるだろ。城内の総魔力量をあまり減らしすぎるのも考えものだな。」
俺は腕を組んで考えた。
通常の魔石は魔力が自然に蓄積されたものである。それを故意に作り上げるには、当たり前ながら石に魔力を込めなくてはならないのだ。
そしてそれは、繊細な魔力操作の出来る者に限る。結果、魔族でいうならば魔法士という事だ。