5.魔王は不死身ではありません─5
「魔王様っ!」
ダミアンの声が酷く遠くに聞こえるが、俺の視界は黒いままである。
理由は分かっていた。それは俺自身の闇魔力であり、肉体の損傷を受けて自動的に発動したものである。
これは俺の意思とは関係なく、『魔王』を守る為だけにある事も理解していた。
『ショウサイ ハ アルフォシーナ ニ キケ。ダミアン ハ コレ ヲ カイセキ セヨ。』
今の俺は音声での情報伝達が不可能なので、ダミアンの黒クワガタに闇魔力で文字として伝える。
そして胸に刺さっていた棒状の──銀の弓矢を抜いて床に落とした。
あぁ、そろそろ限界。
傷口を闇魔力で塞いでいるが、口の端からタラリと生暖かな液体が流れるのを感じる。
既に周囲の音は聞こえなかった。
リミドラを呼んでおけば良かったな。
彼女につけた黒蝶は治癒特化だから──傷付けない様に包み守るだけではなく、一筋の傷すら残さない為。
まぁ、いなくても何とかなるか。
俺は真っ黒な視界の中で瞼を閉じる。
◆ ◆ ◆
あぁぁぁあぁぁ……っ。また魔王様を傷付けてしまった。わたくしの力が及ばず、 魔王様をぉぉぉおぉぉ。
◆ ◆ ◆
「宰相。邪魔。」
どのくらいこうしていたのか、魔王様と思われる黒い魔力塊の傍に蹲っている宰相を見つけた。
魔王様が転移した後、急いで銀色を集めて人族を撒いて飛んで来たのに。
「アルフォシーナ。何故わたくしを踏みつけているのですか?」
「言ったよ。宰相、邪魔。」
あたしは踏んでいる足に更に体重をかける。
魔王様へ用があるのに、いつまでも大きな図体が道を塞いでいては通れないからだ。
「あの、アルフォシーナ。貴女が足を退けてくれないとわたくしも移動が困難です。」
「そうなの。仕方ない。」
全く悪気はないけど、そこまで言われたら足を退けるしかない。
不本意とばかりに応じつつ、ふわりと身体を浮かせて場所を移動した。
本来あたしが乗っていても問題なく立ち上がれるだろう宰相は、何故かこちらの安全を慮ってくれる優しさを見せる。
何だか嫌な感じ。
「どうしたのですか、アルフォシーナ。険しい表情をされています。そして魔王様に何があったのですか?」
「人族に射られた。元の素材はたぶんこれ。こっちは魔力で変色した方。」
眉根を寄せる宰相に、あたしは魔王様から集めるように言われた銀色を空間魔法に囲われた状態で見せた。
せっかく持って帰ってきたのに、この辺りの濃い魔力に触れたらすぐに黒くなってしまう。
「これは……。」
宰相は銀色が何か分かったのか、そのまま口を閉ざしてしまった。
魔王様もだけど、頭の中でいっぱい考えてるみたい。
言われないと分からないけど、でも言わないなら分からなくて良いんだろうな。