5.魔王は不死身ではありません─4
風魔力を持っている者ならば、高度ではあるものの使えるようになるらしい亜空間収納魔法。
俺が知っている使い手はダミアンとアルフォシーナだけだが、それにしても彼女は水魔力の持ち主だった筈だ。
「そう言えば、アルフォシーナは風魔力も使えるのか?」
思ったままを問い掛けてみたのだが、魔王知識が二属性持ちもレアだと訴えてくる。
そう言えば宰相であるダミアン以外に、四魔将軍達全て一属性だったと思い出した。
筆頭魔法士のインゴフですら光魔力のみなのである。
「あたしは父上から引き継がれた血のおかげ。竜族は息をするかのごとく、亜空間を繋げられる。」
事も無げに返してきたアルフォシーナに、俺は納得しつつ頷いた。
確かに魔王知識にもある。
竜族は本体が大型の魔族なので、様々な生活形態に順応すべく進化した結果だった。
「よし、それなら空間魔法で……って。俺、マスターしてないんだけど?」
意気込んだのは良いが、能力が欠如している事に気付く。
「慣れてしまえば使い勝手が良い。でも必需品という訳でもない。」
アルフォシーナは無表情で告げた。
確かにそうなのである。だから今まで後回しになっていた。
「じゃあ、アルフォシーナに教えてもらおう。」
「……無理。あたしは人に教えられない。」
笑顔を向けた俺の要望は、真顔のアルフォシーナによって却下される。
まぁ、分かってはいた。彼女は講師に向いていない。
「OK、分かった。それなら、アルフォシーナにこれ等を持って返ってもらおうか。」
少しやさぐれつつも、この場で遊んでいる訳にもいかないのだ。
「分かった。魔王様、少しだけ離れて。」
アルフォシーナは言われる事が予測出来ていたのだろう。
すぐに首肯し、俺が距離を取ったのを見計らって直ぐ様銀色の大地をひと抱え程の土と共に空間で消し去った。
うん、やっぱり見ていると俺もこの魔法がほしいな。
「よし、とりあえず戻るか。」
そうして立ち上がった所で、トスッと何かが胸に当たった。
ん?小石でも当たったのかと、俺は自らの服を見る。
「ま……おぅ……さま?」
困惑したアルフォシーナの声が聞こえたが、俺の頭はそれに反応出来なかった。
混乱、する。
何故ならば、俺の胸から突き出た棒状の物体が視認されたからだ。
これは何だかヤバそうで。
「アルフォシーナ。ここから一人で帰れるか?」
俺の状況を無視した冷静な言葉に、アルフォシーナは驚愕を顔に貼り付けたまま何度も上下に頷いた。
「ならば城で会おう。必ずだ。」
再度告げれば、彼女は大きく首肯する。
よし、これで良い。
そして俺の視界は真っ黒になった。