5.魔王は不死身ではありません─3
「アルフォシーナ。お前はここに残れ。」
俺は有無を言わさぬよう、威圧を込めて言葉にする。
案の定、そんな俺の態度は酷くアルフォシーナを驚かせたようだ。
しかしながら、近付く事も出来ない者を連れてはいけない。
「先を見てくる。戻るまで待て。」
そして返答を聞く事なく、彼女に背を向けた。
無言の拒絶。
悪いと思うが、今はそれ以外に方法を思い浮かべられない。
そして俺は真っ直ぐ人族の陣地に足を向けた。
後ろから刺さる視線が痛い気がするも、俺は不死身ではない。気を引き締めなければ。
この辺りだな。
闇魔力を身に纏い、音を消しつつ近付いた先にあったのは先程見た銀色の大地。
俺はその土に注意しながら指先で触れ、自らの変化に驚いた。何故ならば、身に纏った闇魔力が掻き消えるかのように消失したからである。
凄いな、これ。
観察すれば、俺が触れた辺りが真っ黒に変色しているのが分かった。
次に銀色の部分を土ごと掬い上げ、魔力をほんの少し込めてみる。結果は変わらず、直接触れていなくても魔力は消え、色は黒くなった。
魔力に反応し、吸収して変色する銀粉。
これが人族の技術ならば、魔族はこの先に未来がない。
魔力の集合体である魔族は、このミクロンの銀粉によって消滅させられてしまうかもしれないのだ。
不味いな、本気で。
少しでもサンプルを採取したかったが、魔力垂れ流しの俺が触れれば即変色してしまう。
どうすれば良い?
と言うか、人族にだって魔力はある。それが何故、変色させないでいられた?
「魔王様。」
「っ、アルフォシーナっ!」
考え込んでいた為、突然背後に現れたアルフォシーナに驚く。
叫ばなかった俺を誉めて欲しいくらいだ。
「何をしに来たんだ。休んでろと言っただろ。」
「休んだ。魔王様が動かなくなったから、心配して来た。」
「~~~~~っ、分かった……。これを持って帰りたいんだが、触れると変色するんだ。それで考えてた。」
彼女の言い分ももっともだと思い、とりあえず苛立ちを呑み込む。
合わせて現状を伝えた。
「空間魔法。」
端的な言葉だけで、アルフォシーナはそれ以上告げない。
は?……分かっている奴ってこうだよな。自分の中の知識なり考えを言葉にしなくては、到底周囲へ伝わりはしないのに。
「だから何だ。それだけでは全く分からん。」
「亜空間に収納すれば良い……かも。状態保存が掛かる……から。」
俺の突き放すような態度に、少しだけ自信なさげにアルフォシーナが答えた。
あぁ、空間魔法ってそれの事か。