5.魔王は不死身ではありません─2
そんな少し強引な話し合い──あれを話し合いと呼ぶなら──の後、アルフォシーナと俺は闇夜に紛れて人族の拠点へと向かっている。
基本的に人族は暗視能力が高くないので、空一面に常に分厚い雲が掛かっているこの辺りでは不利な筈だ。
広範囲を照らすような照明器具なんて存在しないこの世界では、灯りは魔法か松明などの炎しかない。それ故に、夜は魔族の時間とも言えた。
「なぁ、アルフォシーナ。」
「ん。魔王様、地面がキラキラ。」
淡々と答えるアルフォシーナ。
これだけ聞くと、俺達の会話がおかしなものと聞こえるかもしれない。だが、これは事実なのだ。
現在地は人族の拠点を百メートル程前にした、森ともいえる木々の集合体の上空である。
そして眼下には松明を数ヵ所灯し、見回りの者も何人か歩いている一見すると普通の陣地だ。
だがしかし何故、周囲数十メートルだけが炎に照らされて水面みたいに輝いているのか。
「魔王様。変な感じ、する。」
「え……っ!」
ちょうどその不可思議な一帯の上空に差し掛かった時、突然アルフォシーナの身体が傾いた。
彼女は腰の小さな翼で飛んでいたのだが、急に脱力したようにガクッと降下する。
慌ててその腕を掴んで落下を免れたものの、俺の闇魔力の翼からも少しずつ力が抜けていく感じがした。
このままでは危険と判断し、俺はアルフォシーナを抱き留めたまま後退する事に決める。
落下は拙いし、何より彼女をこのままにしておく訳にもいかなかったからだ。
「大丈夫か、アルフォシーナ。」
後退して近くの森に身を潜めた俺は、グッタリとしたアルフォシーナに声を掛ける。
「……ん。もう、大丈夫。」
木の根元に横たわらせていた彼女は、そう答えながら気だるげに身を起こした。
いやいや、全然大丈夫な感じしないから。
「もう少し横になってろ。それより、どんな異常を感じたんだ?」
アルフォシーナの肩を押して制し、彼女の感じた違和感を探る。
「分かった。魔王様は平気。あたしは力が入らない。」
困惑気味に告げる彼女は、不思議そうに首を傾げながら両手を開閉させていた。
脱力感を感じるのか。確かに俺も、あの領域では魔力を奪われる感覚があった。
やはりあのキラキラ、普通じゃない。
「ほら。」
いざという時の為に持ってきていた野戦糧食用の魔石を手渡し、アルフォシーナに回復を促した。
とにかく、これ以上彼女をこの先に進められないな。