4.魔王なのに留守番です─10
「これが何か分かってるのか?」
「分からない。皆これでおかしくなった。」
アルフォシーナの不安そうな顔。
『何』が原因か『分かって』いるのに、『何故』なのか『理解』出来ないのだ。
そこで俺は、先程魔族の傷口から採取した粉末を観察する。
色は黒い。魔力に触れていたからなのか?
火の魔力を集め、軽く燃やしてみる。
鎮火した後の白く変化した物質を擦ると、あら不思議。光輝きました。
「銀……。」
俺の指先には銀色の粉末が存在していた。
つまりはさっきのは魔化銀だった訳で、ただ魔化──魔力によって変質──していたのである。
しかしながら、いくら銀に殺菌作用があるって言ってもだ。
「試させてくれ。」
「ひっ?」
先程傷口を触らせてもらった──了承を得る前だったが──魔族に、再度実験台になってもらう。
次は水の魔力で球体を作り、恐怖で硬直する彼の傷口を洗った。
「っ?!」
「はえてきた……。」
驚く怪我魔族とアルフォシーナ。
いや、俺も驚いたけどさ。
傷口を洗浄した途端、放出したままだった魔力が無くした部位を形作りだしたのだ。
そんな俺達を見ていた他の魔族達は、こぞって水魔力を使い始める。
「ちょっと待てって。とりあえず傷口を洗い終わった水球は捨てるなよっ。アルフォシーナ、水を入れておく事が出来る場所はないか?外に流れなければ良いから。」
「ん、ある。」
「おい、お前達。使い終わった水はそのまま捨てるなよ~。自分達に悪影響を及ぼす物質を放置したらどうなるか、良く考えろよな~。」
すぐにアルフォシーナに貯水用の場所を確保してもらい、魔族達には軽く脅しをかけておいた。
排水自体が魔族や他の生物にどう症状をおこすか分からないのもあるが、自然界に破棄したら普通にダメだろ。
って感じで、テントに鮨詰め状態だった魔族達は殆ど復活した。
部分欠損は魔力の流れが正常になったら肉体形成を再開し、消耗した魔力は野戦糧食として支給されている魔石を経口摂取する。
これによって完全にではないものの、八割方は回復した。
まぁ、復活したところで彼等に待っているのは戦争の続きなんだが。
「凄い、魔王様。」
「あぁ……、いや。偶然見つけただけだしな。結局のところ、解決策を見出だした訳じゃない。」
「でも、でも……っ。」
賞賛するアルフォシーナに、俺は苦笑を返すだけだった。
俺も同じ。『何』が原因か『分かった』が、『何故』なのか『理解』出来ない。
「とりあえずダミアンに連絡するか。あ~……、ダミアン?」
『魔王様っ!貴方は☆%&@◇%£¢§!』
闇魔力で通信したのだが、向こうが酷く興奮状態のようだった。
音声通話が不可能で、何を言っているのかすら分からない。
分からないが、思わず通信を切ってしまった。