4.魔王なのに留守番です─9
「違う、アルフォシーナ。俺は責めている訳じゃないんだ。……悪いな、城にいても情報があまり回って来ないからよぉ。」
思わず言い訳じみた返しになってしまったが、これは仕方のない事だった。
「違う……。魔王様……あたしもこの戦い、分からない……。」
アルフォシーナも分からないと言いながら、一旦は上げられた頭を再び俯ける。
って、現地にいても相手の武器が分からない?
「なぁ、アルフォシーナ。人族はどんな装備なんだ?」
俺はなるべく優しく問い掛けてみる。
とりあえず当初の目的通りに情報収集が必要だからだ。
「ん……。全身を覆う鎧と、大振りの剣。でも、それだけ。」
「鎧に、大剣?」
「ん。でもそれで切られると、身体の傷が回復しない。」
真っ直ぐ見上げてくるアルフォシーナは、不安を瞳の奥に見せながらも毅然と立っている。
さすが、四魔将軍だな。
見た目は小柄な少女であっても、俺の──魔王の四肢となった自覚があるようだ。
「切り離される事によって核が損なわれるのは分かるけど、それでもその部位に核があった場合だよな?」
思わず首を傾げる。
魔族の肉体は魔力で形成されているので、魔力の補充が出来れば必然的に再形成可能な筈だ。
「ん。でも皆同じ症状。」
視線を向けた先には、自由にならない身体をもて余す魔族達。しかも切断面から魔力が止めどなく漏れ出る為、衰弱していくのである。
「……ちょっと傷口を見せてくれないか?」
「魔王様っ!」
すぐ傍にいた左肩から先を失った魔族に触れた。
慌てたようにアルフォシーナが声を上げるが、ウイルス性のものではない。触った程度で何か起こる筈もなく、若干その魔族が緊張するくらいだ。
痛みを感じているだろう切断面を凝視して、ふと違和感を感じる。
「悪いな、触るぞ?」
「ぐぅぅぅっ!」
相手の了承を得る前に指先で触れ、その魔族が苦悶するも観察を続けた。
そして違和感の正体に気付く。
「……何だ、これ。キラキラ光ってるんだけど。」
霞のように溢れていく魔力に触れていた筈なのに、俺の指先には銀色の粉末が付着していた。
小麦粉のように微細で、擦り合わせてもなかなか取れない。
「何、それ……っ。」
不思議そうに近付いてきたアルフォシーナだったが、俺の指先を見て固まった。
ん?反応がおかしいな。
硬直した彼女の顔の前で手を広げて振ってみる。
「魔王様っ!」
「ぅおっ?」
中腰状態なのに勢い良く飛び付かれ、さすがに倒れはしなかったがおかしな声をあげてしまった。
「それ、危ないっ。」
「な、何が?」
「そのキラキラ、つくと倒れちゃうっ。」
必死なアルフォシーナは、俺の指先についた付着物を警戒しているようである。
彼女のこの反応から、これが魔族達に悪影響を与えている物質である事は明らかだった。