4.魔王なのに留守番です─8
そんなこんなで漸く拠点となるテントまでやって来たのだが。
中は喧騒が漏れているなんて可愛いものじゃないくらいうるさい。
うん……、あまり良い予感がしないな。
「お邪魔しま~す。」
とにかく入って見なければ分からないと決心し、俺は声を掛けながら入り口らしき布を捲り上げてみた。
あ~………………、何て言うかな。
言葉を失って立ち尽くしてしまったのは俺の未熟さ故だが、それ以上に足の踏み場もなかった。
至るところに転がっている魔族達。正確には生きているのだが──その誰もが肉体を其処彼処損傷し、魔力の源である黒い霞を散らしている。
『有り得ない』というのが俺の第一感想だった。
基本的に魔族の存在は魔力の塊である。つまりは肉体を形成している魔力は、消耗すれども部位欠損など考えられない無形のものだ。
しかしながら、目の前に実際にあるのだから有り得ない訳はない──それ程に信じがたい光景だったのである。
「あ……、魔王様。」
呟くように聞こえた声に、ゆっくりと視線を向けた。
そこには憔悴したようなアルフォシーナが座り込んでいる。
「……よお。」
彼女を目にした俺は、間抜けにもこんな返答しか出来なかった。
さらにみっともない事だが、多少顔がひきつっていたのは仕方がないと思ってくれ。
これでも平生を決め込んだふりして、軽く手を上げて見せているんだ。
「ど……した、ですか?」
「あ、俺がそっちに行くから。」
ヨロヨロと立ち上がったアルフォシーナに、俺はその場で待機するように声をあげる。
そしてフワリと闇魔力の翼で舞い上がり、あちこちで転がっている魔族を飛び越えて近付いた。
うん。アルフォシーナは怪我をしていないな。
不躾ながら視線で彼女を確認し、それだけはホッとした。
「魔王、様……あの……。」
「ん?」
「これ……は?」
「あぁ、何となく?」
思わずその頭を掻き抱いてしまった為、困惑したようなアルフォシーナの言葉が返ってきて俺は苦笑を漏らす。
彼女の戸惑いは分かるが、今の俺には心の余裕がないのだ。
本能的に感じた『安堵』を、『アルフォシーナを抱き締める』という形にしてしまっている。
「で、これは一体どうなってるんだ?」
それでもハグという形にする為、すぐに意識を切り替えて身体を離し、現状を問い掛けた。
戸惑いと共に困惑を見せていたアルフォシーナは、その俺の問いに顔を青褪めさせる。
「ご、ごめん、なさいっ。」
普通に立っていても俺より小さな彼女の頭が勢い良く下げられた。
あ、これはマズったな。