4.魔王なのに留守番です─7
何故西に来たのかというと理由は単純で、アルフォシーナが心配だったから。
能力的には何ら問題ないのは分かっているが、俺より小さなあの女の子が戦争に行っているのだ。しかも、指揮者として。
心配するなという方が無理な話だろ。
俺はチラチラと見える灯りに向かって飛んでいるのだが、外に飛び出してみて初めて気付いた夜だったという事。
ずっと机に齧りついて書類と戦っていたものだから、昼だか夜だかの判別がなかったのである。
近付くにつれ時折ボンッと何かが破裂するような音が聞こえるようになり、それと共に喧騒も聞こえてきた。
うん、今が夜で良かったよ。方向を間違えずに飛んでこれたようだ。
「っ、魔王様?」
「よお。アルフォシーナ、いる?」
「あ……、その……。」
背後から飛んできた俺へ警戒を向けた衛兵だったが、闇魔力の翼を見て即座に魔王だと気付いたように慌てている。
蜂とバッタを足した感じの魔族で、その手には槍のような武器を持っていた。
それに対して軽く手を上げて応じたものの、何故か反応が悪い。
「何。」
少しばかり不機嫌な態度になる俺だ。
アルフォシーナには影をつけてないので、現状では何処にいるのかすら分からない。
こんなにも多くの魔力反応がある場所で、彼女だけを捜すのは苦労しそうだ。
「おいっ、お前は何をして……っ!ま、魔王様っ!ど、どうしてこのような場所へっ?!」
俺に対応していた衛兵が気になったのか、少し離れた場所からムカデのような魔族がやってくる。
そして俺に気付き、やはり背中の闇魔力の翼を見て驚いていた。
「アルフォシーナいる?」
俺としては誰でも良いので、そのムカデ魔族に聞いてみる。
理由を問われた気もするけど、そんなの答える義理はないし。
「は、はいっ。こ、こちらでございますですっ。」
幾つもある手をバタバタと動かしながら、ムカデ魔族は俺を案内するように手で方向を示していた。
「サンキュー。よろしく。」
空中で留まっていた俺は、ムカデ魔族についていく為に大地へ降り立つ。
ただし、翼は消さない。いざという時の牽制になるし、魔王だと一発で分かるからな。
それに闇魔力で作り上げている為、攻守共に使えるのだ。
「あ、あちらでござりますすです。」
ムカデ魔族が微妙におかしな言葉で案内してくれた先には、焦げ茶の大きな布がテント状に設置されている。
魔族でも戦時中は拠点を作るようだ。
「ありがとな。」
「い、いいえ、とんでもないことでございますっ。」
片手を上げて礼を言うと、複数の手を前方で振りながらヘコヘコと頭を下げている。
ん?今更ながらに気付いたが、どうやら俺の魔力が怖いらしい。
悪いな、威圧している訳じゃないんだ。




