4.魔王なのに留守番です─4
今、俺はダミアンの執務室にいる。
各地に出払った四魔将軍からの報告が次々と上がってくる為、俺は羊皮紙との格闘に四苦八苦させられていた。
「おい、この費用報告はおかしいだろ。何だ、この賭博費用ってのは!」
牙を剥いて羊皮紙を叩く。
飯と酒なら許されるが、女と博打は却下だろ。
「あぁ、ここの部隊はフランツのところですね。町を拠点にしているとの報告があがっていたので、夜の娯楽にしているのでしょう。」
「そんなの認められん!遊びに行ってるんじゃないんだっ。さっさと終わらせて帰ってからやれと伝えろ!」
「畏まりました、魔王様。」
俺の剣幕にも何食わぬ顔で返答をするダミアン。
ってか、こんなのが今までまかり通っていたって言うのか?
「今後は女や博打の費用請求は却下だと皆に伝えておけ。何の為の遠征なのか考えろってんだ。遠足じゃないんだぞ。」
「はい、全員に通達しておきます。」
プリプリ怒りながらも、俺は目の前の書類を物凄い勢いで捌いていった。
次の日も次の日も、俺は執務室に缶詰め状態である。
外にも出られず、留守番で事務処理だけなのはストレスが溜まる。──って言うか、前もこんな事があったような……。
「魔王様。各部隊からの報告では、人族の武器と防具に特殊加工がなされているとの事。」
「は?何だ、特殊加工ってのは。もう少し詳しい説明をしろ。」
「申し訳ございません、魔王様。詳細は未だ解明出来ておりませんが、こちら側の攻撃が通らないとの困惑が届いております。」
報告内容通りの困り顔を見せるダミアンは、羊皮紙の束を何度も捲っていた。
詳しく明記していないものの、予想外の反撃を受けているらしい。
「俺が行く。」
「なりません。こちらで四魔将軍を指揮してくださるのが魔王様の御仕事に御座います。現地の状況を逐一報告するように申されたのは、魔王様で御座いますよ?」
「その情報が遅いからだろっ?」
「それでもです。都度御自分で動かれていては、下にいる者の立場がありません。」
カッとなって言い返す俺だったが、ダミアンは一歩も引かなかった。
何なんだよ、全く……。
俺は自分の中の理不尽と対する。言葉一つで命が消える立場が、こんなにも重いものだと思い知らされる。
魔王である俺が、魔族であるアイツ等を危険にさらしているのだ。そう思った時、俺は対峙する相手が人である事に気付く。
いや、どうであれ命を奪う側って話じゃないかよっ。
愕然と頭を抱える。
これが『戦争』なのだ。
そして、敵も味方も関係無く命を奪っていく。