3.魔王は万能ではありません─8
「……何か言われたのか?」
「あ……、いえ……その……。」
自分の顔から手を外し、リミドラに真っ直ぐ視線を向けて問う。
俺の変化に気付いたのか、彼女がソワソワと視線をさ迷わせ始めた。
またかよ……。いや、俺が悪いんだよな。
項垂れそうになる自分を叱咤しながら、今まで放任気味であった事を改めて気付かされる。
ただでさえ俺の地位故に、配偶者や側室なんてものまで持ち出してくる高位魔族達がいるのだ。正式に婚約したとはいえ、直接接触していない事などは調べればすぐに分かる。
「分かっているだろうが、まだ正式に婚姻している訳ではないんだ。今日はこれで我慢しておけ。」
「ほえっ?」
俺の言葉に間の抜けた声を出したリミドラだったが、それに構わず彼女の唇に自分のそれで触れた。
瞬間、俺の身体に電流のような何かが駆け抜ける。触れ合っている時よりも顕著に、自分の中の魔力が動いた感覚だった。
「~~~っ。」
きつく瞳を閉じて、真っ赤な顔で唇を引き締めるリミドラ。俺はそんな彼女を薄目で確認しつつも、その柔らかな唇を幾度も啄む。
当たり前だが俺自身はこういった経験がないのだ。しかしながら豊富な魔王知識が、無駄ともいえる様々な情報を渡してくる。
お節介だなと思わなくもないが、こんな俺の記憶もいずれ次代の魔王に受け継がれていくのだろう。
魔王とは闇魔力と魔族知識の器。
これが俺の出した魔王の認識だ。
国を納める事は大切だろうが、通常黒い霞となって消えてしまう魔族において、認証の儀まで肉体が滅する事なく存在するのは魔王のみ。
当然、生きているとは言いがたい状態──ではある。しかし、即消滅はしないのだ。
不意に、プルプルと震えるリミドラに気付く。
おっと。口付けしながら余所事を考えてるとか、本人に知られたら幻滅されそうだ。
俺は唇を放し、フワリと包み込むように胸に抱く。
これ以上は彼女に負担が掛かる。軽い口付けでいっぱいいっぱいなのに、何が『そのつもりでここに来た』だ。
それもまぁ、側室とかふざけた事を言う高位魔族達が煽ったのだろうが。
正式に婚約したのに触れられもせず、そもそも必要とされていないとか言ってるのだろう。ったく。
この手の報告は受けているから、回数で抗議の書面を出してはいたのだ。
それでも減らない馬鹿共の数に、俺は行っていた対処が間違っていた事を突き付けられる。
くそっ……。何やってんだ、俺。