3.魔王は万能ではありません─7
「先程はすみませんでした、魔王様。」
「良いって。それで今、『勇者』はどうしてるって?」
ソファーに座り直し、解読の終わった羊皮紙を見ながらのリミドラとの対談だ。
彼女の方はまだ解読の終わっていない羊皮紙に視線を落としているが、先程の羞恥心が残っているのか少し顔が赤い。
しかしながら尻尾は振っているので、機嫌は良いみたいだけどな。
「はい。現在進行形で監視を行っているようですが、これといって派手な動きはしていないとの事です。ただ国外に出る様子は未だなく、目的は不明との報告でした。」
「そうか、ありがとうな。助かったよ、リミドラ。」
対面して座っているからか、彼女の表情が良く見えた。
初めて会った時は子供かと思ったが、まさかの4つ下──許容範囲ではあるよなぁ、充分。
「どうかなさったのですか、魔王様。」
俺がじっと見ていた事に気付いたリミドラは、不思議そうに小首を傾げて問い掛けてくる。
あ~……さすがに変に思うよな。
「いや、何でもない。」
「あの……。魔王様、は……僕に色気を感じませんか?」
自嘲しながら視線を外した俺に、リミドラは急に不安そうな顔で前に乗り出して来た。
テーブルに手をつき、思い切り前のめりである。
危ないぞ、リミドラ。ってか……色気?
「魔王様言いましたよね、僕が小さいって。あ、あの……本当に子供ではないので、その……あの……。」
無言で瞬く俺へ、必死に言葉を探すように口を開閉させるリミドラだ。
「僕と子作りしませんかっ!」
はあっ?!
言葉に出さずとも、俺は内心で叫ぶ。驚きのあまり、目玉が飛び出るかという程に見開いてしまったのは仕方がない。
いや、今のタイミングで俺が否定的な言葉を言っちゃダメなのは分かる。分かるが!
「ちょ、ちょっと待て。落ち着けよ、リミドラ。」
顔を片手で覆うように隠し、瞳を伏せた。
何故だ。何があったんだ。
自問しながらも、俺は彼女の言葉の意味に発熱する身体をもて余す。
俺はみっともなく赤面していないだろうか?
「落ち着いてますっ。僕、今日はそのつもりでここに来たのですからっ。」
テーブルについていた手を握り締めたリミドラは、前のめりの姿勢はそのままでソファーに腰を下ろした。
しかし残念な事に、彼女の意気込みだけは素晴らしいが、何せ俺がついていけてない。
だいたい、そのつもりでって何だよ。