3.魔王は万能ではありません─4
「魔王様。コンラートが参りました。」
自問自答する俺の耳にノックの音。その後に聞こえてきた声はダミアンである。
少し忘れていたが、コンラートにニコラ・アデルを呼びに行かせたんだった。
「あぁ、分かった。玉座の間へ行く。」
「畏まりました。」
扉を開ける事なく交わされた言葉。
ダミアンは俺がここにリミドラといる事を知っているからである。
「リミドラ。ちょっと行ってくる。悪いが、俺の代わりにクッションで高さ調整しておいてくれな?」
「は、はい、魔王様。」
リミドラを抱き上げて一度自分が立ち上がる。
そして応接用のソファーから大きめのクッションを2つ程掴んで椅子に乗せ、リミドラを再度座らせた。
「用があったら、コイツに言ってくれ。俺の影だから。」
そう言いながら、リミドラに闇影で作り上げた黒い蝶──ミカエラには黒雀だったがな──を渡す。
「綺麗……。」
目を輝かせていたので、気に入ったようだ。
特別虫が苦手とかでなくて良かったと胸を撫で下ろしつつ、俺はリミドラに片手を上げて玉座の間と続きの扉を開ける。
「おや。ご機嫌麗しいようで御座いますな、魔王様。」
顔に出してはいないつもりだったが、コンラートに指摘された。
リミドラがあまりにも可愛かったからとは言えず、ニヤリと笑みを歪める。
「これからニコラに新たな魔道具製作を依頼するんだ。楽しみにして悪いか。」
そして玉座の左後ろで当たり前のように控えるダミアンに、一枚の羊皮紙を渡した。
一礼して受け取った彼は心得ていたかのように、何も言わずともそれをコンラートに渡す。
最終的にはニコラの手に渡るのだが、こうやってバトンのように上のものから順を辿るのだ。
俺個人的には回りくどいと思えるものだが、上司が部下の仕事内容を知る上で必要な事なのだろう。
「ほう……。中々に面白い発想で御座いますな、魔王様。貴方様の想像力には、都度脱帽してしまいます。」
「ふん。下手な世辞はいらん。結果が全てだ。質問はあるか、ニコラ。」
コンラートからのお世辞を嘲笑うかのように返し、すぐ隣に膝をつくニコラに問い掛けた。
俺が問いを向けた事で、コンラートがニコラに先程の羊皮紙を手渡す。
「……恐れながら魔王様。この、『声を記憶させる』と言うのはどのような状態をお考えでしょうか。」
サッと目を通したニコラは、一番疑問に思った事を聞いてきたようだ。
確かに、この世界に録音機器なんてないだろうからな。さて、どう説明しようか。