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召喚魔王の俺  作者: まひる
第3章
149/248

3.魔王は万能ではありません─3


「魔王様……。」

「ん?」

「あの……。」

「何?」

 戸惑うような問答が続く。

 ここは俺の私室だが、勿論寝室ではない。


「魔王様……あの、近いのですが。」

「何だ、嫌なのかリミドラ?」

 小首を傾げながら、わざとらしく彼女の右側の白い犬耳に唇を寄せた。

「ひゃうっ……っあ!」

 途端にリミドラの身体が小さく跳ね、反動で動いた右手が卓上のインク壷を倒してしまう。

「あぁ~……っ。」

「大丈夫だ、大した問題じゃない。」

 コロコロと転がったそれを、床に落ちる前に手を伸ばして止めた俺。そっと涙目で見上げてくる彼女に対し、小さく笑みをみせた。

 それでも膝の上に乗せたリミドラをそのままに、闇魔力を使って(こぼ)れたインクを元通りに戻す。今の俺はそのくらい細やかな魔力操作が出来た。


 とまぁ、(はた)から見たらただのイチャつきを平気で交わしている俺。

 普通なら有り得ない事だが、何故だかリミドラに寄り添っている今の状態が非常に心地好いのである。

 いや、寄り添う等と生温いものではないか。隙のない程に密着している──ちなみに彼女は俺の依頼で犬種の報告書を翻訳してくれていた。


「ま、魔王様。あの、本当に申し訳ないのですが……書きにくいです。それに僕……重いでしょうから……。」

 顔を真っ赤にしながら、羞恥からプルプル震えるリミドラ。

 それでも俺のお願い(ゆえ)に、俺の私室にある書斎で魔族言語に直してくれている。

「でもリミドラの背丈じゃ机が使い辛いだろ。お前は重くないし、俺は今これが気に入っている。他に何か問題か?」

 さも不思議そうに問い掛けると、両耳をヘニャリと倒して上目遣いで見上げてきた。

 うん、困っているのは分かる。

 急に呼び出されたと思ったら、突然俺の私室で翻訳業務。しかも何故だか俺の左足に座らされ、背後から腹に手を回されての拘束状態なのだ。


 疑問も大いにあるだろうが、久しぶりにリミドラと会った俺は非常に彼女に癒されたのである。

 実際に俺も不思議だったのだが、それまで羊皮紙と戦っていた苛々や隼人との邂逅で落ち込んでいた事等が、スゥーッと溶けていくようになくなったのだ。

 しかも、その現象はリミドラに触れていれば更に顕著に現れる。──これはもしかするとあれか。『魔力の発散』という名の、放出行為。

 他のダミアンや四魔将軍達には当たり前ながら食指が動かなかったが、正式な婚約者であるリミドラ相手では俺の中のリミッターが解除されるのだとか?


 いや、待て。

 確かに俺は万能ではないが、魔王知識にあるようにやたら魔力を放出する事を良しと思っていないだけだ──聖人君子でもあるまいし、俺だって男だからな。

 となると、無意識の内に婚約者(リミドラ)ならOKとか思ってたのか?不味いだろ、いやただのスキンシップだけどさ。


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